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時は少し遡り、午前十一時四十五分頃。もうじき客足がピークを迎えようという時、イーサンはレックスとのすれ違いざまに「なあ」と呼びかけた。
「あの人大丈夫かな」
「賢すぎる俺でもさすがにそれでは話がわからん。一体誰のことだ?」
「あのカウンターの一番奥の席だよ。アボカドバーガー置きっぱなしの」
「ああ……で? 『大丈夫』っていうのは?」
「あの人さ、だいぶ前にトイレの方に行ったの見かけたんだけど、そっから戻ってきてねえんだよ。多分、十五分くらい?」
「単に腹を下してるだけじゃないのか?」
そんな話をしていると、ひょこひょこと猫背のフードの男がやって来て、ちょうど見ていたカウンターの最奥の席に座った。それを見ると、イーサンは「あー……」と気まずさげに声を洩らした。
「杞憂というやつだな」
「……そう、だったみたいだな。悪い」
「まあ、これくらいは許してやろう。俺は心が広いからな。また何かあったら気軽に言え。何せ、俺は歴史に名を残す頼もしい男だからな!」
「ふふっ……ありがとな、レックス!」
イーサンは靄がはれたようにすっきりとした笑みを浮かべ、店員を呼ぶ客の声に「はーい、ただいま!」と駆け出していった。
ふん、と鼻を鳴らして、誇らしげな笑みを浮かべていたレックスは、さっと切り替えてキッチンの方へ歩いていく。
「10番テーブル、できてるか?」
「ほ~い。お待ち~」
レックスが中へ声をかけると、銀の棚越しにコールが最後のドリンクをトレーに乗せ、それを優しく押し出した。
「ところで、コール。君はもう休憩に入るよな?」
「うん、ちょうど今から入ろうと思ってたところ~」
「今後歴史に名を残す俺のことを信じて、一つ頼みを聞いてくれないか」
「ん~? 何かなあ?」
「イーサンが、腹を下してたやつを心配してたんだ。十五分ほどトイレに籠って出てこない男性客がいると。先に言ってしまえば、客はもう戻って来たんだが、何だか様子がおかしい気がしてな。トイレが汚れてないか、備品が盗まれてきてないか……そんなところを見てきてくれないか?」
「それくらいなら全然、いいよ~」
「じゃあ~」と言って、コールはゆるりと手を振った。
そして、数分後、変わらぬ表情で戻って来た。そして、タイミングを見計らってレックスをちょいちょいとバックヤードに呼び込んだ。
「えっとね~、こんな感じだったけど……どうする~?」
裏にいるにしては、控えめな声量でそう言うと、コールはセルフォンで撮影した画面をレックスに見せた。
「……コール、君にはこれが何かわかるか? ちなみに、俺にはわかる。天才だからな」
「爆弾……かなあ? これ本物~?」
「少なくとも、俺からすれば本物に見えるな。だが、もしイーサンが気にしていた客がこれに関わっているんだとしたら、犯人はまだこの店の中にいることになる。刺激にならないよう、他の奴らには下手に伝えない方がいいだろう。……特にサニーなんかにはな」
「そだね~。サニーちゃんは……うん、そうだねえ」
コールは深く納得したように、二回も頷いた。
「スタッフさんもおしゃべり好きな人が多いし……とりあえず、店長に話して、様子見してみる~?」
「奇遇だな。俺もそう思う」
「レックスくんが言うなら、間違いないねえ。じゃあ、僕、店長探して伝えてくるよ~」
去っていくコールの背中を見つめながら、レックスはほう、と息をついた。コールは、初めて爆弾を見つけたとは思えないほどに、あまりにも変わらない様子だったのだ。もしかすると、彼は自分と同じくらい肝が据わっているのかもしれない、と少しワクワクしながら。レックスは制服の裾をいじくり、上機嫌にフロアへと戻っていった。




