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甘さが後を引くアップルパイ…… B$4.50

 かちり、とマイクでは拾えていないはずの音が聞こえた気がした。

 盾を持った部隊から、様子をうかがうような視線が向けられる。しかし、ユエは困惑した表情を浮かべていた。

 起きないのだ、何も。

 じっと目を細めて犯人の顔色を観察してみると、どうやら彼にとってもこれは予想外らしかった。何度も何度も、念入りに両手で機械を握り込んでも、店内には一切の変化がない。そうしてやっと異変を理解したのか、犯人は怒りをぶつけるように手に持っていた小型の機械を床に投げ捨てた。

 すると突然、通信で息を飲むような音が聞こえる。


《……未確認音声割り込み》


 突入すべきタイミングを見計らっていたところに、思わぬ外的要因が入り込んできた。まさか、犯人は単独犯ではないとでもいうのだろうか。しかし、ポリスの無線に割り込める人間などそういないはずだ。ということは、強力な共犯者がいるか、あるいは別の事件が絡んでいたか、はたまた民間人の奇妙な偶然か。もしこちらが後手に回っているとすれば……と最悪の事態まで考え始めたとき、その内容が明らかになった。


《これ、は……》

「どうした」

《おそらく、モールス信号確認》


 「おそらく」ということは、トン・ツーであることは理解できても、その内容は即座に解読できないということだろう。それもそのはずだ、日常的にモールス信号を使う人間が当たり前にいてもらっては困る。


「かまわない、そのまま伝えてくれ」

《了解》

《-・-・》

《---》

《--》

《・》


 聞き終えると同時に意図を理解し、ユエは迷いなく声を張り上げた。


「……総員、突入!!」


 重装備のポリスたちが、一斉に店内へと駆けこんでいく。決して広くはない店内が、一気に二倍近い人で埋め尽くされていくのは、何とも言えない奇妙な光景だった。大通りに面している店舗の壁のほとんどがガラス張りで、見晴らしがよいのは幸いだった。店内へ入らずとも、人並みの隙間から、複数人で犯人の取り押さえに成功しているのが確認できた。


「無事終わった……と言うにはまだ早いか」


 ユエは大きくため息をついた。同僚は緊張がとけたのだろうと思い、「お疲れ様」なんて声をかけて肩を叩く。しかし、ユエは眉間をつまみ、より一層疲れた表情を浮かべていた。なぜなら、まぶたの裏であのピンクブロンドの髪がひょうひょうと揺らめいて消えないからである。

 リオードのあの反応では、ローファード・ハウスは今回の一件とは利害関係にないはずだ。無論、ポリスからローファード・ハウスに対する応援要請も把握していない。ということは、彼女が私情で首を突っ込んだとでもいうのだろうか。

 現場の損傷が大きく検証に支障が出る。犯人は重症、または精神が崩壊している。発見した遺体を放置する。証拠品を無断で持ち歩く……エトセトラ、エトセトラ。彼女が関わった事件は、とにかく後処理が面倒なのだ。

 そんな先々の苦労に胃痛を覚えながらも、傷の手当てのため誘導されるリオードの姿を遠目に見つけて、ユエはふっと安堵の笑みを浮かべた。市民の安全を、命を、守ること。それこそが、ポリスの使命である。

 ひとまずは、一つの事件の解決を喜ぶことにしよう。そう思い直したユエは、少しだけ表情を緩ませ、同僚を追うように歩き出した。

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