慣れてもほろ苦いコーヒー…… B$2.50
鳴り響いていたサイレンが、ようやく止まった。いつもは広く感じられる大通りも、今はポリスの緊急車両が鎖のように連なり塞がれている。時折、迷惑そうにクラクションが鳴らされては、ポリスに説得され、不機嫌そうに引き返していくのが遠目に見える。
バーニーズ・タンドの一角にある飲食店「レッド・ロケット・ダイナー」。本日の立てこもり事件の発生現場である。厳重な防護服に身を包み、盾を構えたポリスたちがずらりと並んで店を囲んでいるのは、この街でもなかなか珍しい光景である。
そのさらに後ろに、黒いジャケットを羽織った女性、ユエは立っていた。
「状況は」
《天井の照明破損、犯人による威嚇発砲と推測。目視にて人質の青年の出血を確認。他に負傷者なし》
「了解。指向性マイクは」
《入口正面に設置完了。取得可能。明瞭度低》
「わかった。始めるぞ」
無線機から流れてきたそんな情報を整理しながら、真っ直ぐにガラス張りの店内を見据えると、ユエはゆっくりと拡声器を掲げた。
「中にいる人物へ。こちらはポリスだ。予告状を送って来たのは君か?」
《発声確認、肯定調。「殺す」発言。続けて「無能」発言》
それを聞いて、僅かに眉を揺らす。やはり、特定の生徒個人ではなく、ポリスに対して何らかの恨みを持っているらしい。人が歩けば死体に出会える街において、事件など日常茶飯事だ。一体どの事件の関係者かなんて、今から調べることは到底できない。
「話をしよう。両手を上げているその人質は、君の予告していた職業体験の生徒ではない」
《「知ってる」確認》
「予告と関係ない人質だ。解放してくれないか。そうすれば――」
《拒否。「誰が生徒『だけ』を」確認。ポリスを非難。「全員殺す」発言》
目視で確認できる仕草の落ち着きと、通信で声色についての情報が入ってきていないことをあわせると、犯人の感情はまだそこまで荒ぶっていないはずである。まずは、最も危険な人質、犯人の一番近くに捕らわれているリオードを解放しなければならない。
ユエはなるべく静かな声で、犯人の男に語りかける。
「話をしよう。拳銃を置いてくれ」
《沈黙。……発話確認、肯定調。「置く」確認》
細い髪が首を撫でる。わざわざ予告状を送りつけて立てこもった犯人が、そう簡単に降参するだろうか。
《……金属音、机上接触》
犯人が近くのテーブルの上に、持っていた拳銃をそっと置く。ユエが怪訝に思った直後、通信が入る。
《別物体取り出し》
《起爆装置の可能性》
静かに息を飲む。決して、あり得ない話ではなかったはずだ。そう自分に言い聞かせて、小さな動揺を隠しながら、丁寧に次の言葉を紡ぐ。
「……爆弾を仕掛けているのか?」
《返答なし。笑い声確認》
「落ち着いて、電話で話を――」
《怒号。興奮状態。「冷静気取って」確認。続けて「見てろ」確認》
犯人が窓の外に顔を向ける。不気味な笑みを見せた直後、手元のボタンが思い切り押し込まれた。




