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さよなら初恋。私をふったあなたが、後悔するまで  作者: ミカン♬


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9/12

9  大逆転

 壇上に立つと、足元が震えた。

 レインの緊張まで伝わってくる。


 そっと私の背に手を添えてくれたのはジーク。

 彼の指先の温もりが、胸のざわめきを静めてくれる。


 彼はジークス・ガルシオ侯爵令息。ティオラの元婚約者マーキス様の、兄。

 つまり、ティオラが婚約解消された原因となった人。


 最初に聞いたときは本当に驚いた。

 あの瓶底眼鏡のお兄さんが、まさかジークス様だったなんて。


「大丈夫だよ。僕たちが付いている」

「ええ」

 小さくうなずくと、ジークが優しく微笑んだ。


 おばあ様が、私とレインを紹介してくれる。


「次の事業展開を手伝ってくれるオーレリア・マイケント伯爵令嬢とレイン・ダーナン男爵令嬢です」


 会場から大きな拍手が湧き起こった。


「“可愛い”をテーマに商品を開発し、ファンシーショップを展開する予定です」


 私はデザイン担当、レインは技術サポート。

 一号店の運営は、若い二人──つまり私たちに任されるという。


「もちろんリッチモンド公爵家が、全力でバックアップします」


 私の描いた絵が商品になる。

 お祖父様に“ラクガキ”と呼ばれ、いつも叱られていたあの絵が。

 そしてレインの手作りの人形も、店頭に並ぶ。


 眩暈がしそうだった。夢のような話。


 ──でも、これは現実だ。


 この十日間、レインとジークはこの計画を私に隠していた。

 だから“ファンシーショップ”の話を聞かされたのは、ほんのついさっきだった。


 突然の申し出に、私は一度ひるんだ。


『お店なんて、私には無理です』


 そう固辞した私に、おばあ様は優しく言った。


『失敗しても構わないわ。恐れずやってみなさい』


 リサーチの結果はすでに上々だった。

 子供服店で、私の描いた絵のメッセージカードを景品に添えたところ、大好評だったという。


『私の目に狂いはないわ。自信を持ちなさい』


 レインはその言葉に勢いづき、力強い声で言った。

『リアは強くなりたいんでしょう? 大逆転のチャンスよ!』


 ──そう、私は強くなりたい。

 “恥”なんかじゃないって、ちゃんと証明したい。


『やります、やらせてください』


 そう答えた瞬間、覚悟が決まった。


 そして今、こうしてレインと並んで壇上に立っている。

 拍手を受け、新しい未来へと踏み出そうとしていた。



「リア……」


 目の前にメルキオが立っていた。

 信じられないものを見たような顔で、ただ私を見つめている。


 私は静かに微笑んだ。

 もう彼のために涙は流さない。

 傷つくこともない。


 最高の笑顔で、私は前を向いた。




 挨拶と私たちの紹介が終わると、会場の空気が少し和らいだ。


 ──けれど、それも束の間だった。


 私とレインは、大勢の人たちに囲まれて質問攻めにあっていた。


「このチャンスをどうやって掴んだのか?」

 質問のほとんどはそればかり。


 どう答えたものかと困っていると、ジークがすっと間に入ってくれた。


「二人はまだ学生で、この場には慣れていません。質問はリッチモンドの──僕のおばあ様にお願いします」


 その一言で場の空気が変わる。さすが侯爵家の跡取り。

 けれど、今度は別の質問が飛んできた。


「ジークス様とオーレリア様のご関係は?」


 ジークは少しだけ口角を上げ、さらりと答える。


「今は恋人未満。僕が彼女を口説いている最中です」


 会場がどっと沸いた。

 私は真っ赤になって、何も言えなかった。

 ──事実、彼に告白され続けているのだから。



 この十日間で、私とジークの距離は急速に縮まった。

 きっかけは、彼の何気ない一言。


『僕は前世、映画好きのアメリカ人だったんだ』


 彼の話す内容はとてもリアルで、疑う余地はなかった。


『日本を旅行したこともあるよ。君の絵を見た時は興奮した。仲間がいる! ってね』


 その言葉が嬉しかった。

 そこから話題は尽きることがなかった。


 国も生まれも違うのに、同じ映画を観て、同じ音楽を聴き、同じ本を読んでいた。

 ──二人だけに通じる秘密の時間。懐かしくて、胸の奥がくすぐったくなる時間が流れた。


「私はお邪魔でしょう?」


 ウインクしてレインが離れて行くと、ジークに手を引かれて少し静かな場所へ移動した。

 音楽がふっと止まり、会場が静まり返る。


 そこに現れたのは、マーベリーとケイナス、そしてティオラ。


 三人が演奏の準備を始めると、ティオラと目が合った。


 彼女は小首を傾げて、私とジークを交互に見つめ、

 その顔には、歪んだ感情が浮かんだ。


「ティオラ?」


 ケイナスに呼ばれ、ティオラは慌ててピアノの前に座る。

 けれどその視線は、ずっとこちらに向けたままで。


 ──三重奏が始まった。

 


読んでいただいて、ありがとうございました。


誤字報告、ありがとうございました! 訂正しました。

★ ー「私はお邪魔でしょう?」

   「私はお邪魔でしょう?」邪魔な罫線消しました。ご報告ありがとうございました。

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