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さよなら初恋。私をふったあなたが、後悔するまで  作者: ミカン♬


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8/12

8 メルキオ視点

 

 ──今日は、リッチモンド公爵家の懇親会に招かれた日だ。


 仕事仲間との親睦を深めるためのパーティーで、年に二回ほど開かれる。

 今回、僕は初めて参加する。父からは「失礼のないように」と、くどいくらい釘を刺された。


 パートナーはティオラ。

 完璧なマナーを身につけた彼女なら、何の心配もいらない。

 宝石のように着飾ったティオラは、誰よりも美しかった。


 ──僕はずっと、彼女に憧れていた。

 好き、というよりは“眩しかった”のかもしれない。


 でも、結婚は考えていない。

 だってティオラは僕を好きじゃない。そんなの、とっくに分かってる。

 少しの間だけ恋人のフリをして、幸せな時間を過ごせればそれでよかった。


 ……リアには、本当に申し訳ないと思っている。

 でも、きっと分かってくれているはずだ。僕の“初恋”だと。

 リアはいつだって、そんな僕を許してきた。


 ──ティオラと腕を組み、公爵家のパーティ会場に足を踏み入れた。

 眩しいシャンデリア、流れる音楽。夢のような世界だ。


「そういえば、リアを見かけなかったけど、どうしてるの?」

 ふと気になって、ティオラに尋ねた。


「さあ、朝から見てないわ。拗ねて、レインの家にでも愚痴をこぼしに行ったんじゃないかしら」


 彼女の声には、いつも小さな棘がある。

 ティオラは昔からリアに対抗心を燃やしていた。

 僕に親しげに接してくるのも、リアを焦らせたいからだ。


 それを分かっていても、僕はティオラを拒めなかった。

 リアの優しさを利用して、ティオラと僕は互いの欲を満たしていた。

 本当に、酷い話だ。


 でも、リアも僕を止めなかった。

 信じてくれているから──僕との約束を。

 だからこそ、黙って見守ってくれていた。



 ──ティオラを、ケイナスが迎えに来た。


「最後のリハーサル、準備しよう」


「また後でね、メルキオ」


 涼しい笑みを浮かべ、ティオラはケイナスと並んで去っていく。

 残された僕は、妙に現実感が薄れていた。


 もし今日のパートナーがリアだったら。

 それがリアの社交界デビューになったのに。

 そして、彼女が僕の婚約者だと堂々と世間に知らせられたのに。


 リアの泣きそうな顔が脳裏に浮かぶ。


『私とティオラ、どっちを選ぶの?』


 ……そんなの、リアに決まってる。

 約束したんだから。

 あのとき、そう言えばよかった。


「ごめんよ、リア」


 僕はリアに伝えた。

 これは“偽装”だと。ティオラとは表向きだけの関係だと。


 卒業したら、僕はリアだけを選ぶ。

 そう決めている。


 ──次に会ったら、ちゃんと伝えよう。

 今度こそ、迷わずに。



 しばらくすると、ざわめきが広がった。

 それを制するように、澄んだ声が響く。


「お静かに!」


 会場が一瞬で静まり返る。


 ──壇上に現れたのは、リッチモンド老公爵夫人だった。

 華やかな拍手が沸き起こる。


 リッチモンド商会の元会長であり、その手腕で公爵家を大きく発展させた女性。

 いくつもの有名店を手掛け、海外にも強いコネクションを持つ。


 すでに商売の実権は長男夫妻に譲り、隠居したと聞いていたけれど……

 その姿には、今もなお圧倒的な存在感があった。


「皆様、ようこそ──」


 上品な笑みを浮かべ、参加者たちへねぎらいの言葉をかける。

 その一言一言に、会場中が惹き込まれていた。

 挨拶が終わると同時に、大きな拍手が鳴り響く。


 そして次に、夫人の隣に並んだのは──


「リア?」


 思わず、息をのんだ。


 壇上には、色違いのお揃いのドレスをまとったリアとレイン。

 どちらも見違えるほど美しかった。

 レインの隣には彼女の父親の姿。


 ──けれど、リアの隣に立つ銀髪の男は誰だ?


 まるで絵画から抜け出したような美丈夫が、優しい眼差しでリアを見つめている。

 その瞳は、まるで恋をしているかのように。


 リアもまた、彼に微笑み返していた。


「なぜ?」

 口の中でそうつぶやくと、体が勝手に動きだした。


「リア……」

 会場の後方から壇上へと、僕は真っ直ぐに歩き出していた。


 人の肩をかき分けながら。

 ただ、リアだけを見つめて。


読んでいただいて、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
えええええ、ティオラがリアに敵対心持ってるの気づいた上でティオラを優先しておいて、ほんとにリアと結婚するつもりだったのか……。こいつすげえな。 我慢には許容量があるって事をご存知でない?
馬鹿だ。馬鹿がここにいる。 自分の想いを気持ちをきちんと伝えてもっとちゃんとこのままならどうなるのか考えておくべきだった。 想いを伝えていればリアが我慢して待つなんてことはもちろんあり得ないけど。 元…
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