表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよなら初恋。私をふったあなたが、後悔するまで  作者: ミカン♬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/12

6 招待状の行方

 

 おばあさんに招かれてから、三日が経っていた。


 馬車でいつものように、一人で学園へ行くとレインが待ち構えていた。

 そして、勢いよく私に突撃してくる。


「大変なの! リッチモンド公爵家が、我が家に招待状を送ってきたわ!」

「へえ? すごいじゃない」


「これ、きっと雑貨屋のおばあさんの招待じゃないかしら?」

「違うわよ。私の家には届いてないもの」


「家に帰ったら確かめてみて。リアにも来てると思うの。だって我が家なんて、公爵家とは無縁よ? ほかに思い当たることなんてないわ」


 ──そういえば、マーベリーが名家に招かれたって言っていた。

 もしかしたら、それもリッチモンド公爵家なのかもしれない。


「家に帰ったら聞いてみるわ。多分、私は関係ないと思うけど」

「ねぇ、放課後に雑貨屋へ行きましょうよ。おばあさんに聞くのが早いわ」


 レインの提案にうなずいて、放課後、私たちは雑貨屋へ向かうことにした。


 リッチモンド公爵家──メルキオから聞いたことがある。

 国一番の大富豪で、取引先としても特別な存在だと。



 ◆◆◆



 雑貨屋に着くと、おばあさんは留守で、代わりにお兄さんがいた。


「いらっしゃい」


「ねえ、おばあさんって、リッチモンド公爵家の人なの?」

 小声で、レインが単刀直入に聞いた。


「ああ、招待状が届いたんだね。そうだよ」

 お兄さんは、あっさりと答えた。


「やっぱり! じゃあ、リアにも届いてるはずよね?」

「そのはずだよ。オーレリア嬢は、大切な賓客だから」



「私が賓客? おばあさんは、どういう方なの?」

「うーん、公爵家の人。それだけ」


「お兄さんも公爵家の方なの?」

「僕は違うよ」


 何度も顔を合わせているのに、名前を知らなかったことに気づく。

「あなたの名前を、教えてもらえませんか?」


「僕はジーク。やっとオーレリア嬢に興味を持ってもらえた」

 ジークは少し茶目っ気のある笑みを浮かべた。


 どこかで聞いた名前だと思ったけれど、思い出せなかった。


「彼氏とは仲直りした?」

「え? いいえ。もう、あの人とは元には戻れません」


 メルキオとは決別した。

 ティオラに振り回されるのも、もうごめん。

 何より、彼はあの日、はっきりとティオラを選んだのだ。


「そうか。じゃあ、僕が立候補してもいいかな?」

「ご冗談を……」


 同時にレインが勢いよく叫んだ。

「その髭、剃ってから出直しなさいよ! リアは可愛いのが好きなの。お兄さんは却下!」


「そうか、出直すとするよ」

 ジークは苦笑しながら頬をさすった。


 レインに腕を引っ張られて、店を出る。


「まさか、あの男。リアに目をつけてたなんて。油断ならないわね」

「揶揄われただけよ。それより、帰って招待状を確かめてみるわ」


「パーティは二週間後よ。ドレスも用意しなきゃ。お父さんも混乱して、我が家はもう大騒ぎなの!」


 きっと、我が家にも招待状は届いているはず。

 でも、父がそれを私に知らせるかどうか──それが問題だった。



 家に戻ると、私は真っすぐ父の部屋へ向かった。

 早く確かめなければ気が済まなかった。


「失礼します」

 ノックして扉を開けると、父が書類から顔を上げた。


「どうしたんだ?」

「リッチモンド公爵家から、招待状が届いたと思うのですけど」


「ああ、それなら──間違いがあったようでな。今、公爵家に確認しているところだ」

「……間違い?」


「ああ。お前宛てに届いたが、ティオラと間違えたんだろうと、お祖父さまが言ってね」


「それ、私に届いたんです!」

 思わず声が上ずる。


「なんでお前が公爵家から招待されるんだ?」


「行きつけのお店で、公爵家のおばあ様と親しくなったんです。それで──」


 けれど、父は眉をひそめて、ゆっくりと首を振った。

「ティオラに譲っておきなさい。お祖父様はお前を行かせないだろう」


「お父様まで……私のこと、『恥』だと思っているの? そんなに皆、私が憎いの?」


「そうじゃない。ただ……お祖父様には逆らえんのだ」

 父の声は弱々しかった。


 ――分かっていた。

 婿養子の父には、祖父に逆らう力などない。

 訴えても、届かないのだと。


 廊下に出ると、そこにはティオラが待っていた。

 完璧な笑顔で、まるでこの瞬間を待っていたように。


「演奏に参加するから、リッチモンド公爵家の招待は不要なんだけど──メルキオも招かれているの。せっかくだから彼のパートナーとして出席しようと思って」


 柔らかく笑いながら、酷いことを言う。


「私が招待されたのよ? それを奪うなんて、恥ずかしくないの?」


「『恥』はリアのほうでしょう?」

 ティオラは軽く笑って言い放った。

「メルキオだって私と一緒のほうが喜ぶわ。彼のためにも、諦めなさいよ」


 私の返事など待たず、彼女はくるりと踵を返した。

 その背中を見つめながら、うまく言い返せない自分が情けなくなる。


 ――いつだって、私は敗者。


 でも、招待はあのおばあさんの気持ち。

 それを踏みにじるような真似、したくなかった。


 後で、必死に祖父に訴えたけれど、「公爵家は訂正してきたぞ。お前は引っ込んでいろ」と一蹴された。

 結局、ティオラが堂々と招待状を受け取った。


 翌日、ティオラはマーベリーと楽しそうにドレスを選びに出かけた。

 私はただ、窓越しにその姿を見送ることしかできなかった。



読んでいただいて、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ