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さよなら初恋。私をふったあなたが、後悔するまで  作者: ミカン♬


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11/12

11 さよなら初恋

 ティオラが起こした騒ぎの後始末を、リッチモンド公爵家は驚くほど素早く処理してくれた。


「悪い噂が流れないように手配して。両家にはすぐに抗議書を。リアが危害を受ける可能性があるから、ティオラ嬢とマイケント伯爵家のご老人から遠ざける為に、オーレリアは公爵家で保護します!」


 雑貨屋でいつも穏やかだったおばあ様が、リッチモンド公爵夫人の顔に戻り、きっぱりと指示を出す。


「もうちょっとで、私も参戦するところだったわ!」

 レインはまだ怒りが収まらない様子だ。


「あれ以上、騒ぎが大きくならなくて良かった」

 マーキス様が苦笑しながらレインを宥める。


「ご迷惑をおかけしてすみません」

 私は冷や汗が止まらなかった。

 ティオラは私の従姉妹で、メルキオは元カレなのだから。


「リアが謝ることないよ」

 ジークが私の肩をそっと抱いてくれる。


「その通りよ。落ち着くまではここにいなさいね。リアはもう、私の孫同然なんだから」

 おばあ様は、私とジークに優しく微笑んだ。


「ありがとうございます」

 私は深く頭を下げ、公爵家でしばらくお世話になることになった。



 ***


 ──翌日。


 父と兄が、慌てたようにリッチモンド公爵家へやって来た。


「この度は、本当に申し訳ございませんでした」

 何度も頭を下げるその姿が、なんとも情けなく見えた。


 二人の疲れ切った顔。きっと家では大騒動になったのだろう。


 家族が私を直接いじめたわけではない。

 ただ、祖父に「恥」と叱られても知らぬ振りで、誰も庇ってくれなかっただけ。

 それに、ティオラを持ち上げ、私を遠ざけていたのも事実だ。


「祖父は領地に帰します。王都には戻しません」

 兄が淡々と報告する。祖父は母のいる領地で監視下に置かれるらしい。


「ティオラは医療施設にいれます。家には戻しません」

 ティオラの異常な行動が、精神の不調によるものだと判断されたようだ。


 ──マイケント伯爵家の“妖精姫”。そんなもの、最初から存在しなかった。

 昨日見せたあの姿こそ、彼女の本性。


「だから安心して戻って来なさい、リア」

 父の声は弱々しく響いた。


「いいえ、当分こちらで保護します」

 おばあ様の一言で、父と兄はそのまま帰るしかなかった。



 ***


 ──その次に現れたのは、サーカズ伯爵とメルキオ親子。


「この度はご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございませんでした」


 メルキオの頬には、殴られた跡があった。同情はしない。彼が招いた結果だから。


「てっきりオーレリア嬢をエスコートしたものだと思っていました。まさか、こんなことになっているとは、申し訳ございません」

 サーカズ伯爵は額の汗を拭いながら頭を下げた。


「貴方のご子息は、もうオーレリアとは無関係です。正式に婚約していたわけでもありません」

 おばあ様の言葉は冷静で、きっぱりとメルキオを突き放した。


「そうですが、二人は幼いころから仲が良くて……」

 伯爵が言いかけると、


「でもご子息は、ティオラ嬢との仲の方が、良いみたいですね」

 おばあ様が静かに切り捨てた。


 ──婚約が伸びていた理由。それは、私がマイケント伯爵家で冷遇されていたから。

 伯爵も、きっと内心では“妖精姫”と呼ばれたティオラの方を望んでいたのだ。


 サーカズ伯爵は、黙って俯くしかなかった。

 重い沈黙の中、急にメルキオが顔を上げ、私に向かって訴えかけてきた。


「リア、僕達約束したよね? 僕の気持ちは変わってないよ!」


 そんな言葉、もう私の胸には響かない。


「僕は君を愛してる。君だって僕を愛してくれていたよね? その気持ちを、思い出してよ!」



 隣のジークが私の手を握った。私も握り返す。


 本当はこの親子と会いたくなかった。

 でも私がここにいる理由はただ一つ、メルキオと決着をつける為。


「何度思い返しても、貴方が私を『愛してる』と言ったのは、今日が初めてよ」

「言わなくても……気持ちは通じ合ってたよね?」


「そうかもしれない。――あの日までは。でも、あなたが私を振ったのよ」

「あれは偽装で……」


「いいえ。あの時が、私たちの分かれ道だった。もう後戻りはできないわ。私は新たな道を行くわ」

 私の気持ちは揺らがない。


 メルキオは肩を落とした。

「そうか……もうだめなんだね。きっと僕は一生後悔し続ける……」


「やめて! あなたの思い出に私を残さないで。あなたにも、新しい道を進んでほしい」


 その瞬間、私の手を握るジークの手に力がこもった。

 私のすべてを支えるように。


「リアはもう僕のリアだ。誰にも渡さない」


 ジークの言葉に、メルキオは唇を開きかけて、結局、何も言えなかった。

 目の奥に浮かんだ後悔が、痛いほど伝わってくる。


 そして肩を落としたまま、父親に促されて扉の向こうへ。


 ──さようなら、メルキオ。私の初恋。


 私は決して振り返らない。

 


読んでいただいて、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
リアはメルキオを誠実と評していましたが、どちらを好きだったにせよ恋人()のリアよりティオラを優先する時点でその評価は誤ってたとしか思えないんですよね。ある意味正直ではあったけど。
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