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1-5(悪役令嬢の覚悟).

 なんと、アレクセイが第三王子との正式な婚約のため帝国に向かう私を街道で待ち伏せていた。


 まさか、アレクセイがこんな行動を取るなんて・・・。


 アレクセイはあの後、私がなぜサーシャを虐めていたのかをずいぶん気にしていた。こんな思い切った行動を取るような性格には見えなかった。


 私は護衛の忠告を聞かずに「ちょっとの間だけだから」と言ってアレクセイを馬車に招き入れ二人だけになった。


「さあ、これで二人だけになったわ。この馬車は魔道具で結界が張られていて盗み聞きされる心配もない。一体なんでこんなことをしたのかしら?」


 アレクセイは真っすぐに私を見て口を開いた。


「俺はエカテリーナが好きだ!」


 正直、私は驚いた。だって彼は・・・。


「今度は後悔する前に言えた・・・」


 アレクセイが何か呟いているがよく聞こえない。


「そうだったの?」

「ああ、大好きだ!」

「私はアレクセイのことが好きよ」


 さっきまで緊張で強張っていたアレクセイの顔が歓喜に染まっている。


「やった! 今度は後悔せずに済んだ!」


 一体、彼は何を言っているんだろう? 私にはまったく理解できない。


「いえ、私はアレクセイが好きだったわ」


 私は言い直した。


「だった?」

「ええ、どこの誰とも分からない転生者が体を乗っ取る前のアレクセイがね」


 目の前の男は、私が言っていることが理解できないのか、ポカーンとした顔をしている。


「断罪の場でのあの発言を聞けば、あなたが私と同じ転生者だって、すぐに分かったわ」


 以前のアレクセイはいわゆる脳筋だった。オーギュストたちと同じですぐにサーシャに絆された。サーシャはゲームの主人公であり性格も良いのだから、5人の中でも特に単純で素直なアレクセイが絆されるのは当然だった。


 だけど、私はそんな単純で純粋な脳筋バカであるアレクセイが幼い頃から好きだった。前世で乙女ゲーム『心優しき令嬢の復讐』をプレイしていたときからアレクセイは私の押しキャラだったのだ。考えて見れば、当時の彼氏とは正反対のキャラだ。好きになったのはそれが理由だったのかもしれない。それなのに、私の好きだったアレクセイは外見だけはそのままに、突然別人になってしまった。


 私は、お父様に招待されてボルジア家に来た彼と話したときのことを思い出した。本来の単純で純粋なアレクセイとは全く違って私の思惑を見抜こうとしていた。それに私を見る粘着質な目つき・・・。アレクセイは明らかに別人になっていた。それに断罪の場でのあの発言だ。アレクセイの体が何者かに乗っ取られたのは明らかだった。


「私のアレクセイを返してよ!」


 16年間、いえ、前世も入れればもっと長い間恋し続けていたのに・・・。


 突然、アレクセイの性格が変わって私は大きなショックを受けた。オーギュストからは婚約破棄されたけど、目の前の男があんな発言をしなくても修道院送りを逃れるため伯爵令嬢のアメリアに証言を頼んでいた。アメリアは私の取り巻き令嬢とは見做されていない。そのアメリアが証言すれば公平な意見として扱われると計算してのことだ。あのとき私のそばにいたアメリアも驚いていた。自分が言うはずだったことを先にアレクセイに言われたのだから当然だ。


 あとはお父様の力でアレクセイと婚約するだけだった。この世界のサーシャが素直にオーギュストルートを選んでくれたのも幸いだった。結局アレクセイはフリーになるのだから、お父様同士の関係からしても私とアレクセイが結ばれるのは自然なことだった。


 私がサーシャを虐めていたのは国のためなんかじゃない。オーギュストから婚約破棄されて自分が好きな人と結ばれるためだ! 婚約破棄されてもゲームのように修道院送りにならないように手も打っていた。


 それなのに・・・。


「い、いったい何を言って・・・」

「何をじゃないわよ。だから言ってるでしょう。私は昔からアレクセイが好きだったのよ。予定どおり婚約破棄されたのに」


 それが、こいつが転生してきたせいで・・・。


「すべて台無しじゃない!」


 この世界では自分の思った通りに生きよう。本当に好きな人と結ばれるためには悪女にだってなろうと思っていた。前世の失敗は繰り返したくなかった。


 そう、前世の私は彼氏のせいで自殺したのだ。


 有名な企業に就職した私は、毎日仕事に追われていた。上司も厳しかった。でもそれだけなら耐えられた。やりがいだってあった。


 私の彼氏は典型的なダメ男だった。


 忙しい私の時間にかまわず自分にかまってもらいたがった。やれ就職が上手くいかない、妹が俺を馬鹿にしている、くだらない話ばかりだ。あとはやることといえば、あればっかりだ。私が会社での苦労をそれとなくほのめかしても気がつく気配もなかった。それなのに、優しい私はそんな彼氏を見捨てることができずに、とうとう精神に変調をきたした。


 高校生のとき、私のほうから告白して付き合い始めたという負い目もあったのかもしれない。考えてみればあのときだって、私を助けたんじゃなくて私の短いスカートから覗く太腿でも見ていたのかもしれない。恋人として行為を思い出せば、まんざらあり得ない想像でもない。とにかく優柔不断な私はどうしても彼を突き放すことができなかったのだ。


「そう言うわけだから、どこの誰かは知らないけど、さっさと私の前から消えて頂戴!」


 目の前の男は唖然とした顔している。あうあうと言うだけで言葉が出てこないみたいだ。


 こないだ転生してきたばかりのくせに、街道で待ち伏せして告白するなんて、まるで彼の、あいつのような勘違い男だ。

 呆けたような顔してヨロヨロと馬車を降りる勘違い男を見ていたら、さっきまでの怒りがだんだん収まってきた。なんだか、凄くすっきりした。


 ラノベで『ざまぁ』した主人公のような気分だ。

 

 うん、前向きな気分になってきた。


 そういえば、以前遠くから見かけた帝国の第三王子はなかなかのイケメンだった。評判も悪くない。このままいけばデナウ王国はゲナウ帝国の軍門に下ることになるだろう。そのとき、この婚姻は我がボルジア家の役に立つ。


 そういえば・・・帝国の第三王子といえば・・・もしかして、一番攻略難易度が高いと言われていた隠れ攻略キャラではなかったか。確か顔面偏差値が一番高く、そのほかのスペックも最高レベルと噂されていた。


 私はゲームでは出会うことすらできなかった・・・。


 これは、結構運がいいのでは、だとしたらあの勘違い男も悪くない仕事をしてくれたのかもしれない。もちろんアレクセイのことは残念だ。ずいぶん長い間恋してきたのだから、忘れるにはちょっとした時間と心の痛みが必要かもしれない。


 でも、今の私は前世の優しいだけの私とは違う。このくらいのことで挫けたりしない。 


「ちょっと邪魔が入ったけど、帝国へ向けて出発して頂戴」


 私は前を向いた。私の頭の中からは、さっきのどこの誰とも分からない転生者のことはすでに消えていた。


 私はこの世界で絶対に幸せになってみせる!

 ここまでは連作短編として投稿した第一作「乙女ゲームの断罪の場に転生した俺は悪役令嬢に一目ぼれしたので、シナリオをぶち壊してみました!(『心優しき令嬢の復讐』シリーズ1)」の内容に相当します。

 忌憚のないご意見や感想をお待ちしてします。読者の反応が一番の励みです。

 明日、短編の第二作目にあたる部分を投稿します。

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