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4-6(悪役令嬢と姫騎士).

「私が悪役令嬢のエカテリーナですわ」


 ぷっと吹き出すように小さく笑ったセリアは「ご丁寧にありがとうございます。私が姫騎士のセリアです」と落ちついて答えた。セリアは夫のカイルベルトと一緒にゲナウ帝国の王宮を訪ねたついでにカイルベルトの弟の妻であるエカテリーナと会うことになったのだ。これはエカテリーナのたっての希望である。セリアには何か予感のようなものがあった。


「それで、セリア様も転生者ってことでいいんですよね」

「はい。それでどうしてそれが分かったのかお伺いしても?」


 エカテリーナは頷いた。


「私とダイ様の結婚披露パーティーでのことですわ。カイルベルト様がベランダで、ロミオとジュリエットと呟いているのを聞いてしまいましたの。てっきり私はそれでカイルベルト様が転生者だと思ったのですが、カイルベルト様を問い詰めたら、それをセリア様から聞いたと、そう言われたのです」


 セリアはエカテリーナの言葉を聞いて少しだけ考えた。


「そうですか。声に出ていたのですね。敵対する国の王子と貴族令嬢、まるでロミオとジュリエットだなと確かにそう思った覚えがあります」

「私、それを聞いて確信したのです。セリア様はカイルベルト様が好きなのだと。だって、ただマルマイン王国のためにカイルベルト様を騙しているだけなら、自分たちをロミオとジュリエットに例えたりはしないと思ったんですの」


 セリアはあのときの自分の気持を思い出してみた。


 おそらくパーティーの最終日だろう。エカテリーナ様の言う通り、すでに私はカイル様に惹かれていた。


「そうですね。エカテリーナ様の仰る通りだと思います」


 エカテリーナは頷くと「それで、私、ダイ様にカイルベルト様とセリア様の結婚を勧めたのですけど、余計なことだったでしょうか?」と尋ねた。


「いえ、ありがとうございます。私は、その、思った以上にカイル様のことが好き、いえ愛していたようで、今は本当に幸せです」


 セリアの頬が赤く染まった。エカテリーナはそんなセリアを妹でも見るような目でみていた。セリアはエカテリーナよりだいぶ年上のはずだ。セリアはエカテリーナに見つめられてますます赤くなった。


「それで転生者のセリア様にお伺いしたいのですが、セリア様も日本からの転生者ってことでいいのですか?」

「はい。ということはエカテリーナ様も日本から・・・」


 エカテリーナは頷くと、少し間を置いてから「私、自殺したのです。日本ではあまり幸せではなくて」と言った。


「まさか、エカテリーナ様が・・・」

「それが、本当なんです。今と違って心が弱かったのです。私は小さい頃から前世って言っていいのかしら、日本での記憶がありました。だから同じ失敗はしないと心に誓って成長したのですわ」

「そうですか・・・」

「セリア様は? それとも聞かないほうがよかったかしら?」

「私は、日本では病弱だったようですわ。病室で過ごしていたこと以外、大した記憶もなくて。そのまま病気で死んだようです。あまり幸せな人生とはいえなかったみたいです」


 セリアの前世は病弱な日本人だった。まるで正反対の人生を与えられたようだ。


「エカテリーナ様、私は最近になって日本のことを思い出したのです。まだ少し曖昧です。ただ、病弱だったせいか、本を読むのは好きだったみたいで、あのときもロミオとジュリエットのことは自然に思い出しました」

「そうですか。それでは、この世界が乙女ゲーム『心優しき令嬢の復讐』の世界だと知っていますか?」

「はい。薄っすらとですが覚えがあります。私、病室でよくゲームをしていたようなのです」


 エカテリーナは小さく頷くと少しさばさばした口調で「まあ、お互いあまり幸せでなかった前世の話をしても仕方がありませんわね」と言うと「でも、一つ確認したいことがあるのです」と続けた。


「確認したいこと?」

「はい。『心優しき令嬢の復讐』にはどうやら続編があるようなのです。セリア様は知っていますか? 私は続編をプレイしたことがないのです」


 セリアは首を横に振った。セリアは第一作でさえ詳しくは思い出していないのだ。


「そうですか」


 エカテリーナは少しがっかりした様子だ。


「エカテリーナ様はどうして続編のことを?」

「聖女様の出現ですわ」

「もしかして我が国の聖女様が」

「ええ、私は続編の主人公は聖女様ではないかと睨んでますの」

「この王宮にね、エルサっていう侍女がいます。エルサはマルマイン王国に聖女様が現れることを予言しました」

「じゃあ、そのエルサっていう侍女が・・・」

「私はエルサじゃなくて、その後ろにいる人物が続編を知っている転生者だと思っています。私の予想が正しければその人物は私の知っている男ですわ」


 そこで、エカテリーナは、デナウ王国の学園での卒業パーティーにおける悪役令嬢断罪の場面からこれまでのことをセリアに語った。


 セリアは思った以上に長いその話を理解するのに少し時間がかかった。セリアは決して頭が悪いわけではない。むしろカイルベルトとの駆け引きを見ても分かる通り人一倍鋭い感性と優れた洞察力を持っている。そのセリアにしてエカテリーナの話は驚きの連続だった。


「エカテリーナ様は、失礼ですけど、思った以上に凄い方ですね。私、エカテリーナ様とだけは戦場で会いたくありませんわ」

「まあ、名高い姫騎士にそう言って頂けるとは、お世辞だとしてもとても光栄ですわ」


 セリアが言ったのは決してお世辞ではない。その知恵や洞察力だけではなく、何より胆力が、何事にも動じない胆力が凄い。セリアは心からそう思っていた。


 こんな悪役令嬢がいたら主人公の出る幕はないのではないだろうか?


「いえ、決してお世辞ではありません。ダイカルト様との結婚はもちろん、私が呟いたロミオとジュリエットという言葉からの推理もそうですけど、そのエルサと言う侍女を虐めていたのがオルランド侯爵令嬢だと見抜いてそれを止めたこと、何よりエルサの後ろ私たちと同じ転生者の・・・その・・・アレクセイ様がいると予想しているあたりは、まるで物語の中の名探偵のようです」


 セリアは早口で一気にそう言った。


「ありがとうございます。それでも私にも完全には予想できないとがあります」

「エカテリーナ様もプレイしてないと仰った続編のことですね」


 エカテリーナは「はい」と頷いた。


「ゲナウ帝国が聖女様と姫騎士を有したマルマイン王国との戦争に負けてダイ様も死ぬとエルサは話していました。それはアレクセイが、いえ、アレクセイの中にいる転生者が私を脅すために考えた作り話なのだと私は思っています。それは、さっきお話した通りです」

「そうですね。『心優しき令嬢の復讐』は気楽にできるのが唯一の取り柄といっていいゲームでした。エカテリーナ様の言う通りで、そんな鬱展開は似合いません」

「ええ、ただ、それでも続編のストーリが気にならないと言ったら嘘になります」

「そこで、私の出番ですね」

「はい、私は当然ゲナウ帝国とマルマイン王国の戦争なんて望んでません。そんな展開が『迷宮物語』の続編には似合わないことも確かです。ですが、この世界は現実です。何が起こるか分かりません」

「続編のストーリーがエカテリーナ様が主人公ではないかと想像している聖女様のハッピーエンドで終わるのだとしても、この世界はその後も続きますものね」

「さすが、セリア様です。私が心配しているのは、まさにそこです。私たちは、これからもこの世界で生きていくのですから」


 セリアはエカテリーナの言葉に力強く頷くと「聖女様の動向には私が注意します。それに聖女様の力がどんなものだっとしても、決してゲナウ帝国はもちろん、他国との戦争に使わせません」と宣言した。


 その後セリアは、エカテリーナに促されるままにマルカ魔術学園で聖女ソフィアに会ったことを詳しく話した。セリアが話し終わった後、エカテリーナはしばらく考え込んだ。


「エカテリーナ様、何か気になることでも?」

「いえ・・・」

「ソフィアは第一作目の主人公のサーシャ・ミグルと同じ男爵令嬢ですね」

「ええ、発想が貧困でテンプレ展開が好きな『心優しき令嬢の復讐』シリーズの制作陣ならありそうなことですわ」


 実は、セリア自身もちょっと気になることがあった。だから聖女の姉からも詳しく話を聞いていた。


 その後エカテリーナはセリアにいくつかの質問をした。答えられなかった質問については「調べてみますわ」とセリアは請け負った。

「ありがとうございます、セリア様。私も帝国が、これ以上マルマイン王国に無理難題をふっかけたりしないように注意しますわ」


 その後二人は、あまり幸福ではなかった日本での記憶の中でも比較的当たり障りのない話をした。それでも日本のことを話してみると思ったより楽しいことに二人は気がついた。

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