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4-4(魔術学園入学).

 私とソフィアは15才になりマルカ魔術学園に入学することになった。


 少し前に隣国であるゲナウ帝国と戦争になるという噂で国中が緊張に包まれた。実際に、小競り合いがあったらしいが姫騎士セリア様の活躍で大きな戦争になることなく収まったと聞いている。さすが姫騎士様だ。それよりもっと驚いたのは、その後姫騎士セリア様がゲナウ帝国の第二王子であるカイルベルト様と結婚したことだ。カイルベルト様は今ではアルストン辺境伯領でセリア様と仲良く暮らしているとのことだ。なんとセリア様とカイルベルト様は戦場で会ってお互いに一目惚れしたというのだ。しばらくは、国中がこの戦場の恋の話題で持ちきりだった。いつか私も・・・。


 とにかく姫騎士セリア様のおかげで私たち姉妹も無事マルカ魔術学園に入学できるというわけだ。王太子であるアーサー殿下と側近候補のパーシヴァル様も同級生になるはずだ。ブレンダは土属性魔法がちょっと使えるだけの私の入学に反対したがソフィアが「お姉様と一緒じゃなきゃ嫌だ!」と駄々をこねた。お父様としては、お爺様への手前、ソフィアだけでなく私もマルカ魔術学園に入学させたかったこともあって、結局、それは認められた。


 ソフィアはこんなにも私を慕ってくれるのに・・・。


 あの日からアーサー殿下が頻繁に我が家を訪れるようになった。王太子が男爵家を頻繁に訪問するなど普通はあり得ない。だが、王家もそれを容認していた。いや、むしろ積極的に勧めていた。殿下が我が男爵家を訪問するのはソフィアに会うのが目的だ。


「殿下ようこそお越しくださいました。ソフィアが待ちくたびれていますわ」


 今日もブレンダが卑屈な笑みを浮かべてアーサー殿下を出迎えた。


「ソフィア、ルシア、いよいよ来月からマルカ魔術学園入学だな」


 いつも通り護衛のレナード様を伴って我が家を訪れたアーサー殿下は満面の笑みでそう言った。殿下が名前を呼ぶ順番はあの日からソフィア、ルシアの順だ。


 その前までは逆だったのに・・・。


 こんなことでソフィアに嫉妬している私は悪い子だ。男爵家での私の扱いも、男爵家のもう一人の娘という感じだ。ブレンダがそう望んだ通りになっている。もともと天使のようなソフィアは使用人たちに評判が良かった。ブレンダの企みもあり私はちょっと我儘な姉と思われていた。それが、最近は我儘なだけでなく何を考えているのかよく分からない表情の暗いだと思われているのは自分でも分かっている。


 父は以前にも増して口数が少なくなり、特にブレンダとソフィアには何も言えなくなった。


「殿下、学園でもよろしくお願いしますわ」

「よろしくお願いします」


 殿下に返事をする順番もソフィアが先だ。殿下もそれを当たり前のものとしている。ソフィアは伝説の聖女の生まれ変わりかもしれないのだから当然だ。あの日からソフィアは傷を癒す聖属性魔法が使えるようになった。魔法を使うときソフィアの手が薄く光る。その光る手が触れた傷が癒される。今のところ、ちょっとした怪我くらいにしか効果がない。だけどソフィアはまだ15才だ。これからその魔法の力を伸ばすことが期待されている。


 その後は親し気に話す殿下とソフィアと、その話を聞くだけの私といういつもの構図になった。今日はパーシヴァル様もいない。時間が経つのが遅く感じる。最初に殿下に会ったときにはあっという間に時間が経ったのに・・・。


 殿下がようやく王宮に帰った後、私は人知れず溜息を吐いた。





★★★






 マルカ魔術学園入学を目前に控えて、私はシェリンガム伯爵領にお爺様とお婆様を訪ねた。あれから何となく足が遠のいていたが、年に何度かは訪問している。あれ依頼シェリンガム伯爵領訪問にソフィアがついて来たことはない。今回はマルカ魔術学園入学の報告も兼ねて訪問したのだ。お爺様とお婆様は相変わらず私を可愛がってくれる。今回もソフィアはついて来なかった。私にはありがたい。ソフィアがいたらどうしてもあの日のことを思い出してしまうからだ。


 私はシェリンガム伯爵領で久しぶりにのんびりした時間を過ごした。


「ルシア、なんだか元気がないな」

「いえ、ただ、私は土属性魔法がちょっと使えるだけで、魔術学園でもちゃんとやっていけるのか心配で・・・」


 それにソフィアがいるし・・・。


「心配ないわ。ルシアはマージョリーの娘なのだから」とお婆様が言った。

「お婆様、お母様はそんなに魔法が得意だったのですか?」

「ええ、マージョリーはルシアと同じ土属性に加えて氷属性の魔法も使えたんですよ」

「はい、お父様からもそう聞いたことがあります。なんでも辺り一面を凍らせるような魔法も使えたとか・・・」

「ふふ、辺り一面はちょっと大げさね。でも、凄く広い範囲を凍らせることができたの。凍った後の景色もちょっと神秘的だったわね」


 魔法が得意だった私のお母さん。お爺様とお婆様の娘だ。ふっと見るとお爺様がじっと私の顔を見ていた。


「お爺様、私、頑張ります」

「ああ・・・」

「お母様の娘なんですから」

「ルシア・・・。お前はお前のできることをすればいいんだ」


 お爺様は私を抱きしめてくれた。





★★★





 私とソフィアはついにマルカ魔術学園に入学した。入学式ではアーサー殿下が新入生の挨拶をした。相変らず格好良かった。


 その後、もともと殿下と知り合いだった私とソフィアは、学園でも殿下とその側近候補たちと親しく、いや親しすぎるくらいの関係を維持している。もっとも私はソフィアのおまけだ。


 私とソフィアはまず順調といえる学園生活を過ごしていた。


 そんな中、魔術学園に入学して半年を過ぎた辺りから、ソフィアが聖女の生まれ変わりであるとの噂が広がってきた。ソフィアの力のことは王家の方針により秘密にされているのだがアーサー殿下のソフィアに対する態度もあってソフィアには何かあるのではと勘ぐられたのがきっかけだ。大体魔術学園に入学してその力を隠すことは無理だ。


 ある日、午前の授業が終わり食堂に向かって廊下を歩いていると3人の令嬢とすれ違った。


「あなたが、ソフィア・ファンゲッティね」


 その令嬢は、私がそこにいるのを無視してソフィアを睨みつけた。両脇には二人の令嬢を従えている。私はこの3人を知っている。同じ一年生だ。


「はい。えっと、貴方は?」


 ソフィアが戸惑ったような表情で尋ねた。ソフィアは知らないのだろうか?


「私は、アンジェリカ・ブラックロックよ」


 ブラックロック侯爵令嬢だ。クラスは違っても私はアンジェリカ様を知っていた。アンジェリカ様は王太子であるアーサー殿下の婚約者だからだ。アンジェリカ様は金髪で気の強そうな令嬢だ。ちょっと変わった髪型をしている。あれは縦ロールとでもいうのだろうか? ソフィアが聖女の生まれ変わりではないかという噂と共にアンジェリカ様の立場が微妙になってきていることを私は知っている。 


「貴方、もう少し立場をわきまえることね」

「それはどういう意味ですか」


 ソフィアが訊き返した。私はハラハラしてそれを見ていた。


「理解できないのですか? 殿下には婚約者である私がいます。貴方の殿下に対する態度は婚約者がいる殿方に対するものとは思えません。ですから、わきまえるようにと言ったのです」


 アンジェリカ様の言うことは分からないでもない。ソフィアは天使のようなだけど、誰にでも気さくで優しいのでその態度は誤解を受けやすい。でも、どっちかというと悪いのは殿下のほうじゃないかと思う。殿下は学園に入学以来何かとソフィアにかまっている。いつもソフィアと一緒にいる私にはよく分る。


 豪華な扇子を口に当てて高笑いをしながら去っていくアンジェリカ様を私は呆気にとられて見送った。それにしても、最後まで私には目も向けなかった。私だってよく殿下と一緒にいるのに・・・。


 そんなことはあったものの私たちの学園生活は相変らず順調だった。


 天使ように純真なソフィアはアーサー殿下はもちろん、その側近候補の騎士団長の息子、宰相の息子、殿下の従弟の公爵家の令息などとすぐに親しくなった。私はそのソフィアの影のような存在だ。それにしてもパーシヴァル様も入れて殿下の側近候補が同じ学年にこんなにも揃うものなんだろうか? 何か不思議な巡り合わせのような気がする。


 私とソフィアは殿下たちと昼食のテーブルを囲んでいる。殿下たちと昼食をとっていると視線が痛い。本来男爵令嬢の私やソフィアが王太子のアーサー殿下とこんなに親しくすることが不自然なのだ。まして殿下には婚約者のアンジェリカ様がいるのだ。だけど、ソフィアが聖女の生まれ変わりかもしれないと広く噂されるようになってからは、少なくとも表立っては何も言われなくなった。もちろんアンジェリカ様たちは別だ。それに、ソフィアと違って私はただの男爵令嬢だから気苦労が絶えない。


「ルシア、今日の魔術の授業はどうだったの?」


 そんな私にパーシヴァル様が話しかけてくれた。


 パーシヴァル様は違うクラスなので昼食のときくらいしか話ができない。パーシヴァル様だけは、こうしてソフィアではなく私に話しかけてくれる。口数は少ないが最初に会ったときから私に対する態度が変わらない。


「ええ、なんとか」


 当初は心配していた魔術の授業だけど特に問題ない。どうも最近少し魔力も増えてきたらしくて、以前は小さな小石をフラフラ飛ばすだけだった私の魔法だけど、今では鋭く尖った岩石をかなりのスピードで打ち出すことができるようになった。今日も先生に実践でも使えそうですねと褒められたのだ。でも、そんなことを聞いてくれるのはパーシヴァル様だけだ。

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