表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神を奉る暗黒教団の教団長は、管理職から逃げてきた俺です  作者: 安威要


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/30

【第22話 公開、アレは監査——見える化の反撃】

 朝、空気は澄んでいる。灰の匂いは薄い。

 今日は“公開監査デー”。盤面をこちらで作る日だ。


 教会跡の前に、板を三つ立てた。

 一枚目「焼印の角度」。正規印の型板を透明板に描き、問題の焼印に重ねる。内角は正規45度、焼印43度。外輪の太さも違う。見ればわかるズレ。

 二枚目「聖灰の組成」。石灰分、木灰、香草粉末の比率。公認灰の標準比と、現場採取灰の偏り。数字は大きく右揃え。

 三枚目「時系列」。糸鈴途絶→襲撃→聖灰散布→焼印→拉致→追跡→救出。時刻と場所を線でつなぐ。


 通路はロープで区切り、見学線を設けた。標識はでかい字で三行以内。

 骨は“視界外”。林間で自然体。どや立ち、厳禁。今日は本当にやめて。


 午前、商会の顔、町の評議、見物の人がぽつぽつと集まる。

 黒外套——査察官カリスが前へ出た。


「本日の監査は公開で行う。まず焼印。これは正規神殿の紋ではない。角度と線幅が一致しない。聖灰も公認と配合が異なる。——記録に載せる」


 ざわつきが一段落したところで、俺が板を指す。


「次に、こちらの運用。『骨は視界外』『町内投入ゼロ』『植え戻し二倍』『作業事故ゼロ継続』。襲撃はあった。けれど、作業事故は切らしていない。

 今日からの再建、段取りは公開する。隠すものはない」


 手が挙がる。粗い外套の男。15話で縄に転げた顔だ。

「……俺は、あの夜、やった側だ。腹は減って、冬が怖くて、押した。だが、この板を見た。二倍植えて、事故ゼロで、火を止めた。

 ——俺は、昼の雇いに来た。日銭2銅でいい。植え戻しは3銅だろ?」


「来い。規格は厳しい。守れれば、続く」


 別の手。神殿の若い助祭が顔をこわばらせている。

「骨は、やはり不浄では——」


「宗旨はそれぞれ。でも今日の議題は“安全と合法”。町へ出さず、視界外で土木と物流に限定する。恐怖を増やさない運用を、数字で担保したい」


 助祭が言葉を探す間に、商会の代表が前へ出た。「供給は段階復帰で合意済みだ。炭10袋、薪50束。護送は週二、費用折半。——“道”は守る」


 評議の書記が板に文字を落としていく。「当街として、暗黒教団の炭薪搬入を条件付きで容認する。骨は視界外、町内投入ゼロ。護送は暫定の通行証に拠る」

 文字の音が、釘みたいに静かに打たれていく。


「最後に——ここは祈りの場でもある。弔いを行う。見学は一時中断。静かに、立会ってもらえると助かる」


 人の輪が一歩下がり、空気がやわらかくなる。

 マーラの祈り布を清水で湿らせ、名を呼ぶ。言葉は短く、まっすぐ。

 ニナが肩に手を置き、セラが低い声で祈りを添える。ルークは目を閉じ、ボルンは帽子を胸に当てる。

 リベルティアは幼い声で、でも静かな調子で言った。


「まーら、ありがとう。ここで、いのりは、つづく」


 骨は林間にいて、腕を下ろしたまま立っている。——よし、今日は完璧だ。


 弔いが終わると、人の列がまた動いた。

 質問は実務に移る。「水は」「用水路は」「窯は」——答えやすい球だ。


「用水路は220から250mへ延長。沈殿槽を常設化、濾過は3基を交互運転。

 仮窯は2基を先に上げる。炭“上”の歩留まりは当面60%。“特上”は試験再開後に。

 小市は再開、規模は半分。公開監査と動線を共用する。数は壁に貼る」


 助祭が今度は落ち着いた声で聞く。「事故ゼロは、続けられるのか」

「続ける。『火の10ルール』『水の10ルール』は町にも貸す。手順を声に出すと事故は減る。指差し呼称、笑われるけど効く」


 夕方、公開監査の記録が読み上げられた。

 『焼印は正規印に非ず。聖灰は標準比と異なる。襲撃は純化会印を名乗る者による。

 骨の運用は視界外・町内投入ゼロで条件付き容認。護送は暫定通行証に拠る。』

 カリスの声は短く、言葉は重い。紙の下端に印が落ちる。


 人の波がほどけていく。

 俺は板に今日の数字を足した。

 ・公開監査:完了(焼印角度差43/45、聖灰配合差、時系列公開)

・合意:搬入条件付き容認/護送=週二(暫定通行証)

・再建:用水路250m計画/沈殿槽常設/仮窯2基稼働へ

・雇用:日雇い2銅/植え戻し3銅、募集告知

・作業事故ゼロ:継続66日(襲撃死は別記)


 日が山に落ちる。

 弔いの花の匂いと、炭の匂いと、紙の匂い。

 積み上げたものは一度壊れた。けれど、見せれば戻る。数字で、板で、声で。

 リベルティアが小さく欠伸をして、俺の袖を引いた。


「けい、きょうは、よくやった」


「まだ途中。明日も見せる。数字は逃げない」


 オーシが角で肩をコツン。

 糸鈴の切れ端が、風に一度だけ鳴って、静かになった。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ