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邪神を奉る暗黒教団の教団長は、管理職から逃げてきた俺です  作者: 安威要


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15/30

【第15話 盗伐と野盗、アレは見せ方——無血退去】

 昼過ぎ。空気はまだカサついてるけど、朝よりは落ち着いた。

 壁板に今日の続き。防火帯:3m×200m済。糸鈴ノードをさらに2つ、東北の尾根に追加。合計18。警戒レベルは“黄”→“黄の上”。妙に具体的だけど、現場はこういうノリが効く。


 夕方前、東側の糸鈴がチリン、間を置いてチリンチリン。鳴り方が違う。ニナが駆ける。


「樹間の向こう、男が10人前後。荷車2台。斧と鉈。……あと、革鎧が混じってる」


 盗伐か、野盗を装った強奪か。どっちでも、被害ゼロで返すのが目標だ。


「四段構えでいく。紙→影→縄→証。流れはこう」


 紙=まずは言葉と掲示で誤解を剥がす。

 影=怖がらせる見せ方で“踏み込み”を止める。

 縄=非致死の罠で最前列だけ絡め取る。

 証=合法の証文と数字で落とす。

 ——あくまで“人間に勝つ”んじゃなく、“状況に勝つ”やり方で。


「影はあれ、使える?」とニナが目をキラつかせる。


「使える。“どや立ち”合法使用の時間が来た」


 帆布を2枚、森側に高く張る。焚き火を手前で炊いて、背後に骨。直接は見せない。影だけ巨大に。

 骨には胸を張ってもらう。今日は“どやOK”。めずらしい日だ、楽しめ。


 縄はボルンの出番。足元の草に低いロープ、引くと起き上がる麻袋の抱え罠。金属は使わない。刺さない、切らない。

 “鳴子”は糸鈴の枝分かれを使って複層化。音で距離と人数がなんとなくわかるように。


「セラ、救急セット準備。念のため。ローヴェン、監督に回って。ルークは証文。伐採地の地図、商会の検印、誓約板の写し。全部一式」


「了解。右揃えで持っていく」


「そこ右揃えは関係ない」


 日が沈みかけるころ、彼らは森の陰から現れた。

 先頭は粗末な外套の男。目が泳いでる。後ろに革鎧の肩が2つ、あれは本職だな。


「そこまで。火の向こうは立入禁止区域」


 声は柔らかく、でもはっきり。俺は掲示板を指す。

 『伐採1:植え戻し2』『事故ゼロ継続』『外周禁火』『骨は視界外で運用』。文字はでかい。読める相手にはこれで十分。


「森は、誰のもんでもないだろう!」と革鎧の一人。


「それ、わかる。だからこそ、こっちは“誰のものでもない森”を長く保つために、数字でやってる。伐採は記録、植え戻しは二倍。商会の検印もある。ほら」


 ルークが板を差し出す。革鎧は鼻で笑って手を払おうとしたけど、外套男が先に手を伸ばした。読み書き、できる顔だ。


「……本当に二倍植えてるのか」


「今日だけで苗床に120。今月は1,000超える。見に来るか、明日明るい時間に」


「今、だ」


「今は火の管理中。今日は無理」


 押してくる空気から、革鎧の主導がわかる。外套組は迷っている。

 ここで“影”。合図。帆布の後ろで焚き火を強め、骨に“胸を張れ”。影が伸びて、帆布に巨大な骨のシルエットが三体、並ぶ。


 革鎧の顎が止まった。外套連中は一歩下がる。想定どおりだ。

 骨の踵打ち(カカトをコツンと地に当てる)に合わせ、オーシが低く鼻を鳴らす。角の影が帆布の隅にかすめる。演出過多? いい、今日は“見せ方の日”。


「邪教の軍勢!」と革鎧の片方が叫んで、踏み込もうとして——足がロープを踏んだ。

 ぴょん、と麻袋が起き上がり、膝から下を抱え込む。見事に転がった。

 もう一人も足首にロープ、手をついたところに丸太ストッパー。派手にすっ転んだ。痛いけど、切れたりはしない。


「殺しはしない。帰れ。森は、長く使う前提で対話する相手だけにもつ」


 革鎧は歯をむく。外套男が視線を落として、うなずいた。「……俺は、帰る。こいつらは知らない」

 いい判断だ。俺は頷く。


「手当して、送る。次、必要なら昼に来い。案内する。仕事がほしいなら、日雇いで2銅から出す。植え戻し班は3銅。数字は黒字で回す」


「雇うのか」とニナが小声。


「雇える相手は、雇ったほうが被害は減る。反対側のコストを下げるのも運用だ」


 転んだ二人のうち一人は足首をひねっただけ。もう一人は膝に打撲。セラが手際よく包帯を巻く。

 革鎧の片方は毒を吐き続けたが、もう片方は目を閉じて黙った。どっちにしろ、血は出てない。目的どおり。


「検印の写し、渡しておく。これを持って商会に行け。うちの伐採は合法で、値も正規だとわかる」

 ルークが書付を外套男に渡す。男は深く頭を下げた。


「……すまない。冬が怖くて、急いだ」


「わかる。だから、明るい間に来い。冬の段取りは、数字で一緒に作ろう」


 退く気配が固まったところで、帆布の火を落とす。影は消える。骨は林間に下げる。

 鳴子が小さく鳴って、森がまた静かになった。


「無血退去、達成。縄、回収。罠は全部畳む。証文は控えをルークが持つ」


「了解。右揃えで——」


「だから右揃えは関係ない」


 夜。

 全体ミーティングは10分。今日の良かったを3つ挙げて終わり。

 テッサ「帆布と火、影がきれいに出た」

 セラ「怪我ゼロ」

 ルーク「証文の効果、即効性あり」

 ボルン「罠、誰も切ってない」

 ニナ「どや立ちが合法で使われた」

 骨は——胸を張ったまま固まっている。「はい終了、どや解除」

 ゆっくり腕が下りた。おつかれ。


 板に数字を足す。

 糸鈴ノード:18。侵入:1件。被害:0。捕縛:2(治療後送還)。雇用提案:日雇い2銅/植え戻し3銅。

 事故ゼロ継続:63日。防火帯“黒帯”は明日350mへ延長予定。


 火事はまだ来ていない。でも、来ても勝てる準備が、今日ちょっと厚くなった。

 現場は問いに答える。俺は、見せ方と数字で、まず一回勝った。


(つづく)


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