石じじいの話・朝鮮からの手紙
石じじいの話です。
じじいは、朝鮮で終戦を迎えて、日本に引き揚げてきました。
彼は、そのときのことを語ることはほとんどありませんでしたが、断片的にしてくれた引き揚げの話にこういうのがあります。
じじいは、朝鮮で(おそらく平壌)で、仕事の関係で、若い日本人男性と知り合いました。
彼には家族がありました。奥さんと、お子さん二人です。
彼は、絵が趣味で、非常に上手でした。
じじいも絵を描くのが好きだったので、彼から絵を習いました。
習うといっても、二人でたまに写生にでかけて、アドバイスを受けるというような関係です。
家族とも親しくつきあい、二人の子どももじじいになついてくれたそうです。
じじいは、仕事で、朝鮮全域を渡り歩いていたので、半年ほどで彼らと別れ、そのあとは文通だけをする関係となりました。
その後、彼らと再会することなく、じじいは終戦を迎えたのです。
朝鮮から引き揚げ、少したったころ、彼の故郷の両親が住むという実家に手紙を書いたそうです。
帰国後すぐに手紙を書きたかったのですが、じじい自身の生活が安定しなかったのと、引き揚げ時に、彼の日本の住所をなくしてしまい、それを見つけるのに時間がかかったのです。
しばらくして、彼の妹という女性からの返信がありました。
その手紙によると、
兄と彼の家族は、結局、朝鮮から帰ってこなかった。
彼らの消息もわからない。
しかし、両親と私は、彼らの帰郷をいつまでも待つだろう。
もし、彼らが帰ったら、必ずあなたに手紙を書く。
兄に手紙を書かせる。
だから、待っていてくれ。
と。
その後、じじいには、手紙は来ませんでした。




