石じじいの話・いくつかの短い話 10・山に捕らえられる
石じじいの話です。
短い話を2つ。
(1) じじいが山を歩いていた時、一人の男性と出会いました。
彼は、森の中からガサガサと下草をかきわけて出てきました。
彼の服装は粗末なもので、ぼろぼろでした。
陸軍の軍服のようにもみえたそうです。
じじいを見ると、彼は、息も絶え絶えに話しだしました。
「おれは、いままで山の中で縛られていた。やっと、その縛めを切って逃げ出したんだ。これから家に帰るんだ。」
そして、彼は、今は何年か?とたずねてきました。
じじいが、その年の元号を答えると、彼は、
「おお、その元号は知らない*。捕まっている人間は、おれのほかに、もう一人いたが、そいつは死んだ。」
じじいが不安げに彼を見ていると、彼は、
「おまえも気をつけろよ。あいつらが追いかけて来るかもしれんぞ。つかまるなよ!」
彼は、そう言い捨てて、山を下りていったそうです。
(2) ある人のところに、定期的に手紙が届くことがありました。
その手紙の内容は、時候の挨拶や、受取人にはまったく関係のない祝いなどで、トンチンカンな内容のものもあったそうです。
旧交を懐かしむ内容であったり、許しを請うものであったり、事務的な払込連絡だったりと、様々でした。
差出人の名前や住所は、手紙によってまちまちでしたが、何通かは、同じ差出人だったそうです。
また、差出人の名前がないものもありました。
手紙は、どうも、同じ場所からは投函されていない、と考えられました。
手紙は、はがきだったり封書だったりしました。封書の場合は、使われている封筒や便箋の種類は毎回違っている。
使われている筆記用具は、インクペンだったり鉛筆だったりと様々でした。
一度、往復はがきで来たことがあったので、その差出人住所に送ってみようかということになりました。
しかし、そうすると何か悪いことが起きるのではないかということで、やめたそうです。
犯罪者が、その家のことを探っているのかもしれない**。
知人や親戚に尋ねても、そんな手紙を出した覚えはないと言います。
いたずらだろうと思われるのですが、その手紙は、20年ちかくの間、送られてきたそうです。
*以前の話に、じじいが海岸で出会った老人が、彼の人生を語るが、その人生が数百年の長さとしか思えないものだった、というのがありました。
遠くの異国の地へ行き、そこで家庭をもったが、懐郷の想い強く、日本に帰ってきたが、自分の故郷はまったく変わってしまっていて、そこで生活することをあきらめて、隠遁生活をしているという話です。
浦島子のような話です。
**今の、迷惑メール(詐欺メール)のようなものでしょうか。




