石じじいの話・いくつかの短い話 7 - よく働く犬神憑き;子供の石像;海へ飛び込む
石じじいの話です。
短い話をいくつか書きます。
(1) よく働く「犬神憑きの女中」*がいたそうです。
その女性は、大きなお屋敷に雇われていましたが、ある日突然、神がかりのようになって、「私は犬神です。いままでいろいろと悪いことをしてきたので、その罪滅ぼしをいたします」と言って働き始めました。
それからは、以前とは比べものにならないくらい働きだしました。
話しかけても、反応は鈍くうつろな目をしていましたが、言いつけたことはきちんとすませるし、毎日の仕事もしっかりとこなしました。
日がたつにつれて、彼女は、以前の状態にじょじょに戻り始めて、一月もたったら、もとの彼女に戻ってしまいました。
しかし、それからも、彼女は生まれ変わったように勤勉に働いたそうです。
(2) 女性が産んだという言い伝えのある、子供の石像があったそうです。
じじいはそれを見せてもらったのですが、その石は、ちょうどお誕生の大きさの赤ん坊の形をしていました。
近くで見ると、形ははっきりとはしていないのですが、すこし離れてみると、やはり赤ん坊のように見えたそうです。
もちろん成長はしないのですが、不思議な石だということで、ある家に保管されていました。
じじいがよく見ると、その石像の岩石は、黒曜石のようだったとのこと。
火山の噴火のときに、偶然そのような形で冷え固まったのか?あるいは、だれかが、彫ったのか?
じじいは、その石像の破片がほしかったのですが、ハンマーで叩き割るわけにもいかないので、あきらめたそうです。
(3) 崖から海へ馬が走って飛び込んだことがあったそうです。
普段はおとなしい馬でしたが、急に走り始めて、崖から海に飛び込みました。
止めようとしましたが、海に向かって突進したそうです。
崖はかなりの高さだったので、落ちれば、まず助からない。
慌てて、崖下を見下ろしましたが馬の体は、どこにも見えませんでした。
崖の下、水面の近くには、白い煙がただよっていて、海面がよく見えないほどだったそうです。
海岸まで下りて探しましたが、馬は見つかりませんでした。
岸辺にも海面にもいないのです。
その後、馬の死体が流れ着いた、とか、それを目撃したという話はなかったそうです。
*女中という表現は現在では良くないでしょう。今の言葉で、お手伝いさんですね。




