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石じじいの話  作者: Lefeld
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石じじいの話・骨の原野

石じじいの話です。


じじいが満州を旅したときの経験談です。


じじいは、朝鮮人と満州人、案内人の現地の蒙古人とともに、馬で内蒙古の原野を旅していました。

じじいは、乗馬が上手でしたが、この時は、日本と蒙古との間で、馬の操縦方法が違っていたので、なれるまで戸惑ったそうです。

馬で行くと、遠くの地面が白く輝いていました。

かなり広い範囲が白く輝いていて、最初は雨水でも溜まって池になっているのか、と思ったそうです。

しかし、案内人の蒙古人にたずねても、最近、雨は降っていないといいます。

その場所に近づいていくと、白いものが何かわかってきました。

それは、一面に散らばった骨だったのです。

見渡す限り骨が地面を覆っていたそうです。

じじいたちは、馬から下りて、その骨を調べ始めました。


蒙古人にたずねても、こんなに大量の骨が散らばっているのを見たことがない、と。

蒙古人によると、散らばっている骨は、ヤギや羊、馬、ラクダのものだということでした。

頭骨や下顎の骨、肋骨、背骨、四肢骨などがそろっていると。

骨には、成獣のものも幼獣のものもありました。

乾燥した環境なので、ミイラ化して皮が残っているはずなのですが、それがまったくない*。

残っているのは骨だけなのです。

骨は、風によって運ばれてきた砂によって、一部が覆われているものも多かったそうです。

家畜なら、馬やラクダには馬具などが装着されていたはずですが、そのような道具は見られない。

骨を見ながらあたりを歩いていたじじいは、ゾッとしました。

人間の骨が混じっていたのです。

じじいは、人間の骨は見分けることができました。

頭骨、四肢骨、手足の骨があります。

家畜の骨に混じっているのですが、あらためて良く見てみると、結構な数の人間の骨があったのです。

大人の人骨にまじって、小さな子供の人骨もありました**。

しかし、衣服や道具、日用品などは残っていませんでした。

骨には、皮や腱、髪の毛なども残っていない。まったく人骨だけなのです。


じじいが、人骨が混じっていることを教えると、同行者たちは激しく動揺しました。

人骨をよく見ると、その表面や関節の部分に、刃物でつけたような切り傷があり、それは解体痕のように見えたそうです***。

また、大腿骨などの四肢骨には、石のような鈍器で折られたものが多かったのです。

人肉食の跡か?

中の骨髄を食べるために大腿骨を折るのは、よく見られます。

遊牧民は、骨髄を食べるし、日本人であるじじいもそうやって食べたことがありました。

しかし、蒙古や満州には、人肉の風習はない。

じじいは、考えました。

このような骨に残された傷は、オオカミやヤマネコなどの肉食の動物が噛んだときについた痕ではないか?

それらの動物によって死体が食べられたのだろう、と。


しかし、なぜ、こんなにも多量な家畜や人間の骨が散らばっているのか?

骨の表面の状態はさまざまで、細かい割れ目が入って、表面がささくれだっているものや、表面がなめらかで骨になってから間もないのではないか、と思われるものもありました****。

ひびがたくさん入って、表面がささくれだっている骨は、長期間地表にさらされたものでしょう。

なぜ、四肢骨や肋骨が折れているのか?

オオカミなどが死体を食べるときには、まず、栄養があり美味しい内臓を食べるので、腹を食い破ぶって、肋骨を噛み砕いて内蔵を食べます。

また、肛門を噛み裂いて、腹の中を食い進みます*****。

動物が肉を食べるときに、骨も一緒に噛んで砕いてしまうのです。

死体の骨は、他の生きている大型の動物によって踏みつけられて割れる事があるので、折れていても必ずしも、それは人為的なものだとは限りません。


骨がちらばる地面は、花崗岩でできていて、その石がゴロゴロしている。

小さな石が大きな岩の上に、正月の飾り餅のように並んでいるところもありました******。

これは人為的のように見えました。

このような手頃な石を使って骨を砕いたのかもしれません。

それは人間の所為です。


蒙古人の解釈は:

家畜を連れた遊牧民の家族が移動の際に、吹雪などに遭遇して全滅した。

その後、死体は、オオカミやワシなどの肉食動物によってあらされた。

あとで、他の人間が、この全滅した遊牧民の家族を見つけて、その財産、家畜の皮などを奪ったのではないか?

しかし、人間の髪も盗むか、疑問だ。

これは、しばしば訪れる砂嵐によって吹き飛ばされたのではないか?

骨の表面の保存状態が異なることから、この骨の野原は、一度に作られたのではなく、何度かに渡って同じ場所で家畜たちが死に、現在の状態になったのではないか?

彼は、なかなかの探偵です。


いずれにせよ、あやしいことです。

じじいたちは、地図に場所と状況を記録して、皆でお経を唱えて拝み、その場を立ち去りました。

彼らが唱えるお経は、日本語、チベット語、中国語が入り混じっていました。

この後の道中、じじいは警戒して、持っていた銃に弾をこめたそうです*******。

*じじいが、蒙古の他の場所で見た家畜の死体は、すべてが、からからに乾燥していて皮や腱が硬くなって残っていたそうです。

**人の頭骨の年齢は、歯の生えかわりによって推定できます。また、歯のすり減り方や四肢骨の癒合状態でもわかります。

***肉をとるために家畜を解体すると、四肢や胴体を分離するために骨の関節の部分に刃物を入れて切り離すので、そこに刃で傷がつきます。骨の表面にも切り傷がつきます。

****骨が長期間、地表にさらされると、骨の表面が風化してヒビが入って、最終的には粉々になってしまいます。また、骨も肉食の動物によって噛み砕かれて食べられてしまいます。

*****これを、UFOによるウシの肛門の切り取り、いわゆる「キャトルミューティレーション」として見誤る人も多いようです。

******岩石が風化して壊れていくと、自然状態で、分離した石が積み上げられたように残ることも多いようです。それを人為的な構築物(遺跡)であると誤解する人もいます。

*******じじいは、射撃が非常に上手でした。別の話で、彼が拳銃を撃ってみごとに命中させるエピソードがありました。

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