石じじいの話・薬物中毒
これは、薬物中毒の話であり、これまた微妙な話題です。
じじいからの聞き書きであり、話の内容が医学的に正しくないかもしれません。
注意して読んでください。
不都合なら削除します。
石じじいの話です。
じじいは、石探しの旅の途中で、モルヒネ中毒者と知り合ったそうです。
彼は、すでに廃人に近い状態でしたが、なんとか会話が可能でした。
親戚の家で世話をされていました。
その親戚が、石の収集家であり、じじいは、そのコレクションを見せてもらいに訪れたのです。
本人によると、その中毒者は、数年前に盲腸炎の手術をうけ、そのときに初めてモルヒネ注射をしました。
さらに、パラチフスを患って、さらにモルヒネを使用したのです。
それで、モルヒネ中毒となり、自分で皮下注射をするようになりました。
何度も、やめようとして、次第に量を減らしていたのですが、我慢できず反動としてさらに多くを注射するようになってしまい、強い良心の呵責に苦しめられたそうです。
彼は、治療のために病院に入院したのですが、体調は改善しませんでした。
不眠状態であり、早朝から倦怠感があり、食欲不振で朝食などは食べない。
全身の痛みを感じる。
頭蓋骨と脳の隙間を獣がはっているような感じがする。
あたりが常にまぶしい。
口が渇く。
声質が変わる。
性欲が消失してしまった。
それに、発作が起きるようになりました。
彼は、モルヒネの注射を打ってくれと、病院内を歩き回るようになりました。
「モルヒネをくれないと自殺するぞ!」と叫ぶ。
「看護婦を殺してこの病院に火をつけるぞ」と叫ぶ。
脈拍数は、108を超えて、顔面が蒼白、呼吸が切迫して、苦しんで病室内を転げ回りました。
「金をやるから病室から出してくれ!」
それが受け入れられないとわかると、罵詈雑言を発し、号泣し慟哭したのです。
以上の話は、ほとんど聞き取れない本人の独白や、世話をしている親戚からの情報です。
この中毒者は、医専で学び、優秀な成績で医者になりました。
その腕前もよかったのですが、酒癖が悪く、酔うと青ざめてすぐに喧嘩をするような人物だったそうです。
自分の病院を経営したこともあるようですが、不況のあおりでうまくいかなくなり故郷に帰ってきて、病気を患いモルヒネを使って中毒になってしまったのです。
衛生兵の教育を受けていたじじいは、中毒者の体を診ることになってしまいました。
じじいは医者でもないので、そのようなことをするのを断ったのですが、家族や本人から是非にと望まれたのです。
おかしい。容態は、まさにモルヒネ中毒者のそれなのに、腕にも、どこにも注射の痕がない。
じじいが、首を傾げていると、
「おわかりいただけましたか。そうです。彼はモルヒネなど使ったことはないのですよ。」
と親戚の男性は、じじいに静かに言ったそうです。




