石じじいの話・冷たい水
石じじいの話です。
じじいの友人の漁師から聞いた話です。
その漁師が、祖父から聞いたというので、かなり昔のことでしょう。
船上生活者をご存知ですか?
陸上に家を持たず、定住することなく、船で生活をする人々です。
大昔のテレビアニメ(連載漫画も)「アニマル1(アニマル・ワン)」の主人公の家庭がそれでした。
今では困難な設定です。
ある漁村に停泊していた船上生活者の家族がいました。
彼らは、魚をもとめて、船で移動していく人々だったのです。
ある夜、漁師の家に、女性がやってきました。
おそらくその船上生活者の女性だろうと思われました。
彼女は、「娘が熱があるから、氷をわけてくれ」と。
その家の人は、「今は、もう氷はない。翌朝になれば、氷はくる。」と対応しました。
漁村には、獲った魚の出荷の際の保冷のために、毎日氷が運ばれてきたのです。
あまり冷たくなかったのですが、氷が融けた水があったので、それを与えたそうです。
朝、船上生活者の船に行ってみると、娘はたしかに熱をだしていて、ちょうと病院に連れて行こうとしているところでした。
そこの主人がいたので、その家の人は言いました。
「昨晩、奥さんが氷をもらいに来られましたが。」
その男性は、言いました。
「この子の母親は、産後の肥立ちが悪くて、この子を産んですぐに死にました。」
あの女性は、この子の死んだ母親だったのだろうと皆は納得したそうです。
その娘の父親が言いました。
「そういえば、昨夜、娘の熱を冷ますのに使った水は、指が切れるように冷たかった」と。




