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石じじいの話・戦争の話:残された人々 1:息子は帰らず
石じじいの話です。
戦争に関連した話です。
戦死者から残された人々は、どのような経験をしたのでしょうか。
日露戦争のとき、ある女性の息子が戦死しました。
母親が彼の墓の前で祈っていると、息子が後ろから帰ってきたそうです。
彼女は驚いて息子にたずねると:
「俺は、『心』だから、もう帰らないよ」と。
そうして、彼は、歩いて立ち去ろうとします。
彼女は、あわてて、息子にとりすがって、ひきとめようとしました。
その時、息子の身体はたしかにあったし、体温も、匂いもあったそうです。
しかし、それをふりきって、彼は歩き去りました。
彼女は、なぜか足がもつれて追いかけられなかったのです。
それから、「息子は死んだということだが、もしかしたら帰ってくるかもしれない」と思って、息子の死を納得できずに、彼を復員を待っていたそうです。
「でも、やっぱり帰ってこんかったんよ。」
太平洋戦争が終わったとき、彼女は、じじいに、そう語ったそうです。




