石じじいの話・短い話:噛み跡;雪が積もらない場所
石じじいの話です。
短い話を2つ紹介しましょう。
1. ある農家の縁側の床板のへりに大きな噛み跡がついたことがあったそうです。
板の上側(床側)と下側に対称な位置に跡が残っていたので、この板の端を何かが噛んだのだろうと考えられました。
人間の歯型のようでした。
上顎の左右、下顎の左右の歯型がきれいに残っていました。
しかし、大きい。
全体が、人間の二倍はあったそうです。
一つ一つの歯が大きかったのですが、とくに、犬歯の歯型が非常に大きかったと*1。
犬やイノシシ、猿の歯型と比べてみましたが、どれとも違いました。
どう見ても、人間のそれです。
そのような噛み跡がついたのは、それ一回きりでした。
家人は、それを放っておいたのですが、噛み跡は何十年も残っていました。
じじいが見せてもらったときには、板は灰色に変色して(雨や太陽光による風化の結果です)ひび割れて反ってしまっていましたが、噛み跡は深く残っていて、歯型が明確にみとめられたそうです。
2. 雪が積もらない場所があったそうです。
それは、山寺の庭にありました*2。
直径2メートルほどの円形の場所に雪が積もらないのです。
そこに雪が降ると、すぐに融けました。
地面に触ってみても、特に温かいわけではありませんでした。
寺は山の中腹にあって、毎年雪がかなり降るのですが、そこに積もることはありませんでした。
ある時、そこを掘ってみましたが、なにもありませんでした。
まわりの土と変わりありません。
埋め戻したあとも、あいかわらず、そこには雪は積もらなかったそうです。
*1 親知らずの跡があったかどうかの記述はありません。
*2 じじいの話の聞き取りノートの別のページには、場所は、戦国時代の古い砦跡となっています。
そこは、低い山の頂にありましたが、その時(じじいが見聞した時点)でも樹木は生えておらず、草はらだったそうです。
そこに、雪が積もらない場所があったと。
しかし、砦跡だったのなら、雪が積もるたびに、そこまでのぼって、その現象を確認しなければならないので、かなり不都合です。
そのため、この場所の設定は不自然で、やはり場所は山寺の境内というのが妥当でしょう。




