石じじいの話・山中の貧民救済処
文中に、現在使用しない単語が出てきます。
差別の意図はありません。
石じじいの話です。
ずいぶん昔の話のようです。
じじいが子供の頃、村へやってきた行商の老人から聞いた話です。
その老人が若い頃、遠くの地方の山中に、「貧民救済処(お助けどころ)」があったそうです。
そこは、山をかなりのぼったところにある、立派な屋敷でした。
乞食や浮浪者などが、そこへ行くと、食べ物をもらい宿泊させてくれるのです。
何日も滞在する者たちもいました。
病気を抱えている者には、養生もさせてくれるのです。
そこは、中年の女性と老女の二人によって運営されていたそうです。
しかし、それだけではなく、他にサポートをする人たち(組織?)があるのではないかと、地元の人は噂していました。
周辺の村との交流はなかったのですが、別に対立関係にあるというわけではありませんでした。
村人たちは、「無視」していたと言って良いでしょう。
その家に行くために、よく、よそから乞食がやって来ることがあり、麓の村で、そこへの道を尋ねることがあったそうです。
それを、村人は迷惑なことだと感じていたようでした。
この話を麓の村で聞いた、その行商人は、その家に興味を持ったのですが、村人は、行かないほうがいいと言いました。
なぜなら、そこへ行って、戻ってくる者はいないのだそうです。
少なくとも、その村に降りてくることはないし、麓の他の村で聞いても、そのような貧窮者が山から戻ってくることはなかったと。
そこで、一生を過ごして死ぬのか?
いや、おそらく、知られていない道で山からおりていくのかもしれない、ということでした。
なぜなら、ある村人は、山にのぼっていった人物を別の町で見かけることがあったそうです。
その人物は、数年前に、「山の家」に行くと言って村を通って山に入っていった乞食でした。
特徴のある顔、体格だったので、見まちがうことはないと。
その乞食は、その町で成功して分限者となっていたそうです。




