石じじいの話・砂の降る家を
石じじいの話です。
「不思議な家」についての話は、以前にもいろいろ紹介しました。
今回も、そのような家についての話です。
天井から砂が落ちてくる家があったそうです。
以前の、「石が降る家」のように、知らないうちに砂が畳の上に降り積もっているのです。*1
落ちてくる部屋は、決まっていました。
その部屋は、家の奥にある、床の間がある立派な八畳の座敷でした。
砂は、畳の上に砂時計のように円錐状に盛り上がっているのです。
砂が落ちる場所は、部屋の西北隅に限定されていました。
厳密な位置は、場合によって若干ずれるようでしたが。
量は一合ほどだったそうです。
かなり多い量です。
天井を見ても、そのような砂が落ちてくるような穴はありませんし、天井板に隙間はありませんでした。
穴から落ちてくるとしても、天井の高さから畳にまで落ちる間に、細かい砂粒は空気の抵抗で空中を漂ってしまい、このような円錐状の堆積を作らないのでは、と考えられました。
そうして、砂粒は、畳の上に広く散らばってしまうのではないだろうか?
そのため、これは、だれかのいたずらだろうとは思われたのですが、家人は、だれも白状しませんでした。
よそ者が忍び込んでいるとも考えられませんでした。
もちろん、天井裏も探ってみましたが、砂や粘土が天井に落ちた形跡はありませんでした。
もしかしたら、屋根の部分が壊れて、そこから砂が天井裏に落ちてくるのではないかと、屋根まで登って調べましたが、異常は無いのです。
その後も砂は落ち続けました。
その砂を、じじいは譲り受けました。
石に詳しいじじいに調べてみてくれという依頼があったのです。
拡大鏡で調べると、ぴかぴかと光っていて、粒も揃っていました。
砂粒は、すべて同じ物質でできているように見えました。
自然の砂粒は、粒は、いろいろな鉱物や岩石でできているのが普通だったのです。
中学校の理科の先生に頼んで顕微鏡で調べてみると、その砂は、金属の粉末でした。
砂を唐津*2の板に何度も擦り付けてみると、削れた砂粒で板に色がつきます。
その色*3からすると、それは、おそらく黄鉄鉱の粒と思われました。
顕微鏡で見た形も、黄鉄鉱の結晶の形に似ていましたから、この同定は正しいだろうということでした。
こんな粉末は、田舎では手に入らないだろうから不思議なことだと、先生は首を捻っていたそうです。
じじいは、落ち続ける砂を、その後も何回か手に入れましたが、時によって砂の色が異なっていました。
そのつど上記の方法で調べたのですが、砂は黄鉄鉱の他に輝安鉱*4や鉄のこともあり、ガラスの粒のことさえあったそうです。
その家の人たちは、もしかしたら砂金も落ちてくるかもしれないと期待していたのですが、落ちてきたかどうかは不明です。
まあ、たとえ落ちてきたとしても、他人には言わないでしょうけど
その家の砂落ちの顛末は、じじいの話にはありません。
この砂がないかと思って、「じじい箱」を探ったのですが、見当たりませんでした。
*1 石じじいの話・引用:石の降る家
*2 唐津=瀬戸物
*3 条痕色
*4 輝安鉱は、日本では珍しい鉱物のようです。四国に、大きな結晶を産出する鉱山があったということです。
じじいも、そこに輝安鉱の美しい結晶を採集にいったと話してくれたことがあります。
そのときに、じじいは怪異に遭遇したそうですが、その話は、また別の機会に。




