石じじいの話・死体映画
石じじいの話です。
これは、じじいから聞いた話ではないかもしれません。
内容が猟奇的です。
じじいは、残酷話やエロ話は、子供の私にはしてくれませんでした(ちぇっ!)。
しかし、書き取りノートには、じじいが経験した体の話として書かれています。
そのため、ここでは、じじいの経験した話として紹介しましょう。
「死体」を撮影した映画フィルムがあったそうです。
それは白黒で、16mmフィルムでした。
当時としては高価なフィルムとカメラを使って撮られたものだったようです。
じじいは、面白い映画フィルムがあると、ある人に誘われました。
「おっ!これはブルーフィルム(エロ動画)だ!」と思って、じじいの胸は高鳴ったそうです。
わくわくしながら、その人の家を訪れました。
奥の座敷には、映写機(16mm用なので、大きかったそうです)が据えつけられていて、スクリーンは、白いシーツが使われていました。
上映が始まりました。
じじいは、観始めてすぐに、これは?!と思いました。
期待したものではなく、落胆したのです。
その映画の画面は、地面に横たわった女性の顔が大写しでした。
真上から、真正面から撮影されていました。
女性は微動だにせず、その場面が延々と続くのです。
画面がぶれないので、カメラは、三脚などの架台に固定されていたのだろうと、じじいは考えたそうです。
写っている女性の顔は、まったく動きません。
彼女は、うっすらと目を開いているのですが、瞬きはしません。
顔色は真っ白でしたが、硬調な白黒フィルムであれば、それは自然でしょう。
別に死人の顔なので真っ白であるとは言えません。
彼女は、まったく動きません。
それで、フィルムの一巻目が終わりました。
二巻目の上映が始まりました。
最初は同じ画面でしたが、すぐに、カメラが後ろに(上に)引き始めたそうです。
顔から、肩、胸、上半身と画面フレームにはいってきます。
それにともなって、彼女のまわりの地面も写りこみはじめました。
運動場のような整地された黒っぽい地面だったそうです。
地面に、なにか文字が書かれていたようだが、光線の都合で読み取れませんでした。
石のような硬いもので、地面に書かれていたようでした。
だんだんカメラが引きます。
その女性は、着物(和服)を着ていました。
カメラが引くにしたがって、彼女がしめている帯が見え始めました。
そして、第二巻が終わり。
三巻目。
カメラがさらに引きます。
彼女の足元まで写りました。
白い足袋を履いているのですが、履物(草履)は履いていません。
これを見ていて、じじいは、おかしいことに気がつきました。
当時のレンズは、それほど画角の広い広角レンズではない。
だから、人の体の全体を1画面に収めようとすると、カメラはかなりの距離、その人物から引かなければならない。
しかし、この映画では、カメラは顔のアップから、どんどん、切れ目なく、ブレること無くゆっくりと引いているように見える。
まあ、巻の入れ替えのときに、架台を変えたのかもしれないが。
顔をアップで撮影するためにも、近接撮影ができる特殊なレンズが必要だったのでは。
すると、これは、普通の趣味的な映画ではないのでは?
じじいは、朝鮮にいたとき、軍関係(じじいは、くわしく教えてくれなかったので、推定です)の写真撮影を手伝ったことがありました。
カメラマンを手伝ったので、映画カメラの仕組みや使い方を知っていたのです。
映画は続きます。
カメラはさらに引いていき、画面には、女性のまわりの地面が広がっていきます。
このように、カメラを地面から垂直に上昇させていく装置は、どういう仕組なんだろう?と、じじいは不思議に思ったそうです。
さらに観ていると、白い線(運動場の白線のような)が地面に描かれているのが写りはじめました。
そして、女性のまわりをとりまいて立っている複数の人が、写り込みはじめます。
もちろん、真上から撮影されています。
そこで、ぶつっ!とフィルムは終わりました。
三巻目の途中でした。
このフィルムを上映した持ち主によると、これは、日本政府(軍?)の関係者から手に入れた戦時中の資料だということでした。
終戦時に焼却隠滅されるべきものだったが、国の施設から持ち出されて隠匿されていたのだと。
三巻のフィルム缶には紙ラベルが貼られていて、そこには、墨書きで「経過観察」とありました。
さらに、ラベルには、1/11、2/11, 3/11とナンバリングされていました。
ということは、このフィルムは全部で11巻あったのか?
そのうちの、一巻目と三巻目の前半のみを、今鑑賞したのか?
では、全編は、どのような内容だったのか?
じじいたちは、ここに写っている女性は死んでいるのだろうと考えました。
画面をよく見ると、彼女のまわりを数匹のハエが飛び回っていて、彼女の顔にもたかっていたからです。




