石じじいの話・短い話:山奥の井戸;長い髪
石じじいの話です。
短い話を2つ。
いずれも、じじいの経験話です。
(1) じじいが山を歩いていたとき、井戸を見つけたそうです。
かなり山奥だったので、じじいは驚きました。
井戸が作れるほどの地下水も無いと思われたからです。
まわりには、人家の跡もなく、皿や他の陶器、プラスチック容器などの生活の痕跡もありませんでした。
その井戸は掘り抜き井戸で、枠も中の支柱も石組みの立派なものだったそうです。
覗き込んでみると水が溜まっていました。
水の量も多そうです。
水面に落ち葉が一枚も浮いていないのが奇妙でした。
覗き込んでいる、じじいの顔が水面に映りました。
じじいは、満面の笑みだったそうです。
(2) 川岸の道を山に向かって歩いていると、河原で人が騒いでいました。
なにごとかと、行ってみると、上流から長い髪の毛の束が流れてきたということでした。
河原にひろげられているのを見ると、たしかに長い髪でした。
長さは2mほどもあったそうです。*
全体に真っ黒な髪なのですが、近寄ってよく見ると、すこし白髪が交じっています。
髪は綿の紐で束ねられていたそうです。
紐で束ねられた髪の毛が、それほど長距離、川を流されてくるものだろうか?とじじいは少し疑問に思ったのですが、人々によると、この近くには、そのような長い髪をしている人はいないということでした。
家に保管されていた髪を捨てたのかもしれないとも、じじいは思ったそうですが、黙って先を急ぐことにしました。、
今から登る山には、このような髪をはやした人間がすんでいるのだろうかと、じじいは少し不安になりましたが、石への執着は捨てがたく、川を登ったのです。
*長い髪を持った山人の女性は、柳田国男の話をはじめとして、しばしば語られています。




