石じじいの話・人狼になった母(ロシア)
石じじいの話です。
これは、朝鮮で、知り合いのロシア人が語った話です。
ロシアのある村で起きた、人狼に関する話です。
ある女性が、重い病の床につきましたが奇跡的に回復しました。
家族一同は、安心したのですが、それから、彼女は、徐々に狼に変身しはじめたのです。
彼女は三人の子どもたちの母親で、夫も、祖母も同居していました。
彼女の体全体に毛が生えて広がっていきました。
その毛の長さが伸びていきました。
背中がまるまっていきました。
顔は、犬のように吻部が長く変形することはありませんでしたが、毛のびっしりと生えた耳は大きく長く伸びていきました。
上下の犬歯が抜け落ち、かわりに太く鋭い牙が生えてきました。
鋭い爪が伸びていきました。
しかし、尾ははえなかったそうです。
これらの変化は、一年ほどかけて徐々に進みました。
家族の者たちは、まわりの村人が気づかないように、彼女を家に閉じ込めて外出させませんでした。
ある日、彼女は、突然倒れて急激に狼化しました。
その時は、人間の姿をほとんど残していなかったそうです。
そして、家から姿を消したのです。
まわりの村人たちには、「彼女が子どもたちを置いて家出した。」と説明するしかありませんでした。
彼女は、家に帰ってきました。
狼の姿で。
狼の姿をしていましたが、彼女の中身(?)は、愛情に満ちた人間でした。
月に一度、夜に自分の家に戻ってきて、食べ物をもらうのです。
そのとき、子どもを可愛がり、夫に甘えました。
しかし、こうしているうちに、彼女が、しばしば、その村にやって来ることが村人に知られてしまったのです。
さすがに、彼らは、狼に変身した女性が自分の家を訪ねてきているとは思わず、大胆な狼が村を徘徊している、と思ったのです。
人々は武装して、狼退治を計画し始めました。
これは危ない。
その家の人たちは、彼女にそのことを伝えました。
狼とは言葉が通じないだろうから、そのようなことをしても無意味かと思われましたが、家族の愛情は、それをためらわせることはなかったのです。
彼らは、彼女に言い聞かせました。
「これ以上、家に戻ってこないでくれ。そうしないと、お前は殺されてしまうぞ。それに、私たちが狼を呼び寄せていると誤解されて、村人にひどいめにあわされてしまうかもしれない。」
彼女は、うなだれて聞いていましたが、悲しそうに鳴いて、扉にかきついて家の外へ出ようとしました。
家族の人たちは、村人たちが狼を待ち伏せしているのではないかと、扉を少し開けて外を確認しましたが、幸い誰もいないようです。
その時、狼は、扉の隙間をすり抜けて家から走り出て、そのまま暗闇に姿を消しました。
そして、それ以後、家を訪れることはなかったそうです。
重い病を患うと、それをきっかけに狼になることがあったのです。




