石じじいの話・地方病としての犯罪者(ロシア)
石じじいの話です。
これは、朝鮮に住んでいた時、じじいが知り合いのロシア人から聞いた話です。
ロシアのある地方には、「地方病としての犯罪者」というものがあったそうです。
つまり、ある場所で生活すると犯罪を犯すようになる。
犯罪性向のある人間になる、というのです。
その地域には、岩塩鉱山があり、社会は、かなり富んでいました。
そこでの生活で、かなりの収入を得ることができたのです。
そのため、鉱山で働くために、また、鉱山関係の商売をするために、その地域に移ってしてくる人たちが多かったのです。
しかし、そのような移住者も、しばらく生活すると悪の道に走るのです。
そのような現象を恐れて、その地域から去る人たちもいるのですが、その地域での生活の経済的な魅力は捨てがたいのです。
不思議なことに、その地域から離れると、犯罪性向のある人間に変化していた者も善良な人間になりました。
やはり、その地域での生活が、人間の精神に影響を及ぼしているとしか考えられません。
しかし、それでは地域生活や鉱山経営が立ち行きません。
いずれ、地域住民全員が犯罪を平気でおこなうようになるのですから。
どうしたらいいのか?
一応の解決策はありました。
「ある薬」を服用すると、犯罪傾向の精神状態になるのを防ぐことができたのです。
もちろん、常用しなければなりません。
薬は、その地域の薬局で無料で提供されていました。
その薬は、その地域で製造されるのではなく、遠くの町から運ばれてきたそうです。
この薬を服用していれば、悪の道には走らない。
犯罪性向を示さない。
それに、すでに「悪い人間」に変化してしまっていても、その薬を服用すると善良な人間に、徐々に回復していくのです。
ただし、その薬を他の地域に持ち出して、そこで普通の人や悪人が服用しても善良な人間になるわけではないのです。
薬の成分は、別の地域の鉱山から産出される鉱石から得られるのだということでした。
植物などが原料の生薬ではなかったのです。
残念ながら、その鉱山の岩塩や岩石からは、その成分は得られなかったのです。
そのような、対処療法としての薬に頼るのではなく、その変化を生じさせる根本的な原因を探ろうという医師や鉱山技師がいました。
鉱山からの毒が影響しているのでは?つまり鉱害では、と考えたのです。
彼らの努力は無駄でした。
原因は、まったくわからなかったのです。
彼らは、「生体実験」も行ったようですが、原因はつきとめられませんでした。
その地域で変化した「犯罪者」は、男は空腹時に、女性は妊娠時に特に凶暴になり、犯罪を行ったそうです。
医師は、これは、動物としての固有の特性、すなわち「食物の獲得本能」や「繁殖本能」に、その地域のなんらかの物質(?)が影響するではないか、と考えました。
もちろん、それを証明することはできなかったのですが。
さらに、その地域で生まれた子どもにも影響がありました。
すでに新生児や幼児の段階で、悪(暴力性向など)の傾向を示すのです。
たとえ、両親や親戚らが、その薬を服用して普通の精神や行動性向を保っていてもです。
これは、幼い人間の「自己保存本能」に影響しているのではないか、ということでした。
さらに、「性欲・繁殖本能」に影響することがあったそうです。
その地域や、そこの岩塩鉱山が、その後どうなったかは不明です。




