石じじいの話・時空の論文
石じじいの話です。
じじいが石探しのために海岸を歩いていました。
黒い砂浜です。
まわりに露出する岩石は黒色泥岩でした。
波打ちぎわに、一升瓶が浮かんでいました。
打ち寄せられて、波に揺れていたのです。
よく見ると、瓶は密閉されていて、中に白い紙が入っています。
じじいは、ぴんときました。
「これは、救いを求める手紙か?」
よく、小説に見られる設定です。
「あるいは、海流の観察のための漂流物か?」
じじいは、その瓶を拾い上げて、中の紙を取り出してみました。
その紙は、活字で印刷された、数ページの文書でした。
手書きの手紙ではなく印刷物です。
よく見ると、何かの論文のようでした。
英語で書かれていました。
これは、じじいにもわかったのです。
たくさんの数式が書いてありましたが、その意味は、まったく理解できませんでした*。
文章の一部がカラー印刷であり、これは当時としては珍しいことでした。
カラーインクは、太陽の紫外線によって消えたりするのですが、それは印刷したてのように明瞭な状態でした。
これは、それほど変わったものではないのですが、一つ腑に落ちない点がありました。
その書類(論文?)の発行の日付(?)が2050年10月21日だったのです。
その当時から、90年後の未来でした。
印刷の誤りでしょうか。
じじいは、その書類を、知り合いの理科の先生に見せました。
先生によると、これは物理学の論文だろう、と。
近々、理科教員の研究会が県庁所在地の町で開かれるので、そのついでに、大学の先生に見せてみようということになり、じじいは、その「論文」を先生に預けました。
しかし、その論文が、その後どうなったかは不明です。
あとで、その先生が言うには、
「あの論文、大学の物理学の先生に見せたけど、その人もよう理解できんようやったわい。べつにデタラメな内容やなかったようやけどな。」
*この話をしてくれたとき、じじいは、その論文の内容、テーマを教えてくれたはずですが、私が理解できなかったのか、忘れてしまったのか、聞き取りノートには、その記述がありませんでした。




