石じじいの話・夫との別れ
石じじいの話です。
短い話をいくつか。
すべて、じじいが他人から聞いた話です。
警察官を退職した老人が話してくれました。
行方不明になった男性が、山中で自殺死体で発見されました。
服毒自殺だったそうです。
発見まで年月がたっていたので、遺体の服はぼろぼろになっており、ほとんど白骨化していました。
しかし、死後、動物にあらされなかったらしく、骨格は、人の形を保って横たわっていました。
ぼろぼろの服を着た「骸骨」の状態です。
警察や消防団の人に連れられて、自殺した男性の妻が現場にやってきました。
白骨化しているにもかかわらず、妻による身元の確認は困難ではなかったようです。
彼女は、白骨死体をみて、即座に、これは夫ものだと断定しました。
じっさい、そのとおりだったのです。
遺体回収というときになって、その女性は懇願しました。
「夫の体を、そのままにしておいてくれ。白骨になっていても、ここで「夫の形」が保たれているのだから。」
警察官たちは、当惑しました。
それはできない相談です。
彼らは、「生前の姿」の夫との別れの時間をすごしている女性から離れて数時間待ち、その後、彼女を説得して遺体を収容したそうです。




