石じじいの話・短い話:石段の笑い声;バラの香り;お前も、ねっ!
石じじいの話です。
短い話をいくつか。
(1) 子どもじじいが、山寺への長い石段を登っていると、石段の上と下の両方から笑い声が聞こえてきました。
石段の上のほう(前)にも、下のほう(後ろ)にも人はいません。
上から聞こえてくる笑い声は甲高く、下からの声は野太い低音でした。
その笑い声は、子どもじじいに向かって、上と下から迫ってきます。
子どもじじいは、逃げ場がないので、石段の横の水仙畑に飛び込みました。
その笑い声たちは、子どもじじいがいたところで出会い、いっしょに大笑いして消えました。
完全な沈黙がおとずれたあとも、じじいは、茂った水仙のなかで長い間息をひそめていたそうです。
(2)子どもじじいの小学校の同級生に、「バラの香りがすると死にたくなる」女の子がいたそうです。
(3)おとなじじいが、葬儀帰りに、とぼとぼと道を歩いていると、急に後ろから肩をつかまれました。
そして、言われたのです。
「お前も来い!」
驚いて振り向いたら、みすぼらしい服を着た小さな女の子が立っていました。
「いやいや、この娘の手は、わしの肩には届かんだろう。それに、あの声は、大人の男の声や。」と思った、じじいです。
じじが、声をかけようとしたとき、その女の子は、「ねっ!♥」と言って走り去ったそうです。




