石じじいの話・母の報告
石じじいの話です。
じじいが朝鮮から引き揚げてきた年の冬の話です。
寒い夜、夜中に目をさますと、母親に話しかけられました。
母親は、彼の枕元に座っていました。
彼女は、言います。
「朝鮮からの引き揚げ、たいへんだったね。」
「ひどい戦争だったね。」
「富永さんの息子さんたちはみんな戦死したよ。上の子も、下の子もね。」
「お前が仲が良かったXX子さんも亡くなったよ。*」
「家が焼夷弾にやられてね。燃えてしまったよ。遺体は骨だけになってね。」
「飼い犬のピスも死んだよ。おまえが朝鮮にいってすぐに。これは、手紙で知らせたよね。」
「ほら、裏庭の栗の木の根本に埋めてやったよ。あそこには、その前のクロも眠っているからね。」
「寒いね。からだを大切にしないといけないよ。」
「朝鮮にいる、あの人は元気かい。また朝鮮で会えるといいね。日本に連れて帰りなさいよ。」
母親は、ずれていた布団を肩までかけなおしてくれて、じじいの額に手をやりながら、「だいじょうだから」と優しく言いったそうです。
次の朝、じじいは、お墓参りに行きました。
寺のヤブツバキが満開だったそうです。
*戦争中に亡くなった、この女性は、のちにじじいを訪ねてきます。
そのような話がありました(「石じじいの話・引用:訪ねてきた友人」)。




