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石じじいの話・短い話:壁の腕;死の薔薇の香り;死人のひく荷車
石じじいの話です。
短い話を。
(1) 壁の腕
ある屋敷の部屋の壁に両腕の跡がついていたそうです。
陰のような黒い両腕のシミのようなものが、モルタルの壁に浮き出ていたのです。
肘から先の両腕でした。
あたかも、その腕の持ち主が、壁からすべり落ちないように掴まっているようだったと。
(2) 死の薔薇の香り
ある一族の人々には、臨終のときに薔薇の香りがするのだそうです。
看取られたときには、かならず、まわりの人に「薔薇の香りがする」と言って亡くなるのです。
臨終の際、意識が無くても、死ぬ前、すでに病床に伏している時点で、その香りを訴えたそうです。
ということは、薔薇の香りがしないうちは、まだ大丈夫だと。
この現象は、代々、誰もが経験したのだそうです。
(3) 死人のひく荷車
昔は、荷車が人や馬に引かれているのを見ました。
耕運機で牽引していることもあったと記憶しています。
子供のころ、そのような荷車に乗せてもらったことがあります。
そんな時代、ある人が、じじいに言いました。
「死人が引いている荷車がある。それには乗るな。」




