355/598
石じじいの話・短い話:犬がおぼえた;足の感触;死んだしおり紐;片道切符
石じじいの話です。
「死」に関する話を。
いずれも短い話です。
(1) ある人が言ったそうです。
「死にかけの犬と目があったんだよ。
見ているうちに、その犬は死んだ。
あの犬は、私の顔をおぼえただろうか?」
(2) ある人が言ったそうです。
「若い頃、蛇を踏んだのです。踏み殺したのです。
そのときの、足の、蛇を踏み潰した感触が、いつまでたってもなくならないのです。
もう30年以上も前なのに。」
(3) ある人が言ったそうです。
「この本の、死んだ人が挟んだ、しおり紐のページを読んでいるんだよ。
そのページの番号をノートに書き留めているんだ。」
(4) ある人が言ったそうです。
「駅のホームから、列車に飛び込んで死んだ男がいたんだよ。
その男は、自殺するためにホームで汽車を待ったんだ。
しらべると、彼のポケットから切符が出てきたんだ。
自殺するために、その切符を買ったんだろうな。
その切符は、その人の家の駅までのものだったそうだよ。*
*昔の国鉄の切符は、行き先の駅が印刷されていたのです。




