石じじいの話・少年探偵たち
石じじいの話です。
じじいは、石探しの旅の途中、少年探偵ふたりと出会ったそうです。
昭和30年代の話です。
夕暮れ時、じじいが工場地帯の裏通りを歩いていると、向こうから少年の二人連れが歩いてきました。
もう、暗くなる時刻なのに、子どもがこんな場所を歩いていているのを訝しんだのですが、まあ、そういうこともあるだろうかとも思ったのです。
昭和30年代ですからね。
少し心配になったじじいは、彼らに声をかけました。
「もう暗くなるぞ。早く家に帰ったほうがいいぞ。」
少年たちは、ふたりとも、それほど粗末な身なりではなく、肩掛けカバンをしていたそうです。
少年たちは、「ぼくらは、探偵なんだ。夜になると、このあたりは幽霊が出るので、それを探っているんだ。」と、真剣な顔で言います。
幽霊なんかいないだろう、こいつら、夜遊びしている不良か?こんな小さな子が?
と、じじいは思ったのですが、やんわりと注意して、家に帰したほうがいいだろうと考えました。
よく見ると、少年は、ふたりとも、腰に拳銃ホルスターを下げています。
じじいは、それを使っていたこともあるので、ひと目でわかったそうです。
じじいはたずねました:
「その腰にさげているもの、おもしろいな。かっこいいぞ。おじさんに見せてくれないか?」
少年たちは、笑いもせず、「これは、大事な武器だから、他人には見せられない。」と言います。
「これで、幽霊も怖くない!」と。
おいおい、それほんとうの拳銃じゃないだろうな?!と、じじいは焦ったのですが、まあ、子どもで、そんなことはないだろうと。
そんな話をしていると、日は暮れて、あたりには深い闇が迫っていました。
あたりの工場は、稼働していないらしく、明かりはまったくついていません。
街灯もないのです。
じじいは、早く家に帰るようにと諭して、別れました。
別れ際に、その少年探偵たちは、「お気をつけて!」と、じじいに敬礼して、暗闇のなかにスタスタと歩いていったそうです。
あかりも持たずに。
じじいは、彼らの後ろ姿、と言っても、彼らの姿はすぐに見えなくなったのですが、を見ながら、心配やら微笑ましいやら、複雑な気持ちになったそうです。
「あの子らも、もう、ええおとなになったろうが、どがいしよるかのう?勉強して偉ろうなったかのう?探偵になっとったら、おかしいわいね(笑)。」
「昭和100年」の現在。彼らも、もう探偵は引退でしょう。




