石じじいの話・短い話・戦争体験;恐怖の匂い;誰の影?;蛆の夢;死のメモ(ロシア、朝鮮)
石じじいの話です。
じじいが朝鮮で知りあったロシア人がロシアに住んでいるときに、第一次大戦の廃兵から聞いた話だそうです。
そのエストニア人廃兵は、ドイツとの戦いで負傷して後遺障害を抱えていました。
「マズーリの戦い」で負傷したらしいのですが、今調べてみると、1914年に、現在のカリーニングラード地域(現ロシア連邦領)で行われたロシア軍とドイツ軍との間の戦闘のことでしょう。
じじいの知り合いのロシア人は、その廃兵から、第一次大戦の戦闘についての多くの悲惨な話を聞いたそうです。
それらの話しも、そのロシア人は、じじいに話してくれたようです。
(1) その廃兵は言います。
「恐怖には匂いがあるんだ。」
塹壕で、ドイツ軍からの攻撃を受けていると、あたりに、その匂いがたちこめのたそうです。
それは、火薬のにおいでも、塹壕の土のにおいでも、血や体のにおいでもなかったようです。
戦闘中でなくても、人が強く恐怖を感じるときには、恐怖心が臭気を発するのだと。
(2) その廃兵は言います。
彼が、戦争から故郷に帰ってきたとき、彼を見て、両親は言いました。
「息子よ!お前の足元のそれは、だれの影なんだ?」
(3) その廃兵は言います。
「戦争から家に戻って、この不自由な体で農作業をする日々なのだが、夜、眠っていると、しばしば、『自分の体にウジがわく夢をみて、目がさめる』のだ。」
もう、体の傷は癒えているのに。
(4) その廃兵は言います。
「私は、日頃、自分の死に方を考えて、それを思いつくままメモしているのだ。自分の死にざまのリストを作っているんだ。」
「毎日、そのリストをチェックして、『これはないだろな』という死に方をリストから削除しているよ。」




