石じじいの話・三つの話:クローン人間;見下ろす女;山の分校
石じじいの話です。
(1) 「私は、複製人間なのだよ、君は、自分が複製であるかそうでないかどうかをわかっているのか?」*
じじいが、夜行列車で東京に向かっているとき、向かいに座った男性が、そう、じじいに話しかけてきたそうです。
(2) じじいの友人の漁師が、海で泳いでいました。
その友人の漁村のまわりの海には、小規模ですがサンゴ礁がありました。
サンゴを見るために潜っていた彼は、陽光がふりそそぐ海面を水中から見上げました。
そこで、彼を海面から見下ろす女性と目が合ったのです。
彼女は、顔を下にして浮かぶ水死体でした。**
(3) じじいは、すでに夕方だったのですが、山の中で野営するつもりで山に入ろうとしていました。山に向かう彼の姿を見かけた、麓の集落の人が忠告してくれました。
「この時刻から、山に入るのはやめたほうがいいな。いや、獣がいるというわけではないが。」
「この山の中には、廃校になった小学校の分校がある。立派な建物だ。まだ、壊れてはいないだろうが、そこで泊まるのはやめろ。」
「もし、夜、教室に明かりがついていて、子どもたちが一生懸命勉強しているのを見たら、彼らは全部幽霊だから、すぐに逃げろ。」
じじいは、「気い悪いこと言うなあ」と思いましたが、覚悟して山に入りました。
そうすると、ありました。その分校。
真っ暗だったので、じじいは、そこに泊まることにしました。
恐ろしいことは何も起きませんでしたが、朝起きて校舎内を見てみると、教室も廊下も他の部屋もとてもきれいに掃除整頓されており、ホコリも溜まっていなかったそうです。
もちろん、窓ガラスも割れていない。
とくに、廊下では、長年子どもたちに拭き磨き上げられたであろうなめらかな木の床が、朝日を反射して飴色に輝いていました。
じじいは、自分が廊下につけた足跡を手ぬぐいできれいに拭いて、分校をあとにしたそうです。
*現在では、クローン技術が発明されていますが、戦後まだ間もない当時としてはめずらしい考えだと思います。
**じじいの話には、似たような話が他にあります。同じ話のバリアントなのでしょうか?




