石じじいの話・戦争の短い話:セミが鳴く;黒い雪;白黒の死者たち;唇
石じじいの話です。
戦争に関係すると思われる話をあつめてみました。
皆、短い話です。
(1) 真夏の昼下がり、太陽の光で真っ白に輝く地面の上にセミが転がって、ジジジと鳴いていました。
死にかけているのです。
ときおり羽をばたつかせて、地面をのたくっている、そのセミを見ていると、「アツイ、イタイ、イタイ」と鳴いたそうです。
(2) 暑い夏、訪れた町で知りあった老人が、じじいに言いました。
「黒い雪が降る時がある。それは、死者の無念が降ってくるんだよ。無念が降り積もるんだ。」
路面電車を待ちながら、その老人は言いったそうです。
(3) 空襲で燃え残った一枚の写真を見せてもらいました。
それは、結婚式の記念写真でした。
白黒の集合写真です。
「みんな白黒の死者だ。」
見せてくれた人が言ったそうです。
(4) じじいは、瀬戸内海に面した町を訪れたとき、空襲で死んだ友人の夢を見ました。
彼は、じじいにむかって何か大声で叫ぼうとしていましたが、彼の口からは何も発せられませんでした。
夢のなかで、じじいは彼に声をかけることなく、だまって対面していました。
「あいつの頬は溶けて、鼻は潰れて、叫ぼうにも唇がないんよ。」




