石じじいの話・短い話:鏡を上に向けるな;時間が止まる
石じじいの話です。
短い話をいくつか。
(1) 手鏡を天井に向けて置いてはいけない。
手鏡を上向きに置きっぱなしにしてはダメだそうです。
鏡の中に魔物が入ってしまうからだと。
上向きに置いてあったら、一度地面に向けてから使えということでした。
この話、普通に言われることではないでしょうか?
鏡に関する怪談は、たくさんあります。
鏡は異界とこの世界ををつなぐ通り道だとか。
(2) 時間が止まる山があったそうです。
じじいが、石探しのために山を歩いていました。
ちょっと疲れたので、立ち止まると、まわりがおかしいことに気がつきました。
山を登り始めるときには、風が強く吹いていて、樹木の枝がざわざわと揺れてさわがしかったのに、今は静かなのです。
風がまったく吹かない。
木の枝も動かない。
あたりは、まったくの無音で、鳥の鳴き声も虫の声もないのです。
じじいは、そろりそろりと進みましたが、聞こえてくるのは、山道の枯れ葉を踏む自分の足音だけでした。
足音は、普段よりも、より大きく聞こえたそうです。
樹木が途切れた場所で、ほっと一息して空を見上げると、夏の空に真っ白な入道雲がたちのぼっていました。
しかし、その雲もまったくうごきません。
ご存知のように、夏の入道雲は見ているあいだに、その形を変えるものです。
それが、絵のように変わらない。
しかも、夏だったのですが、無風でもまったく暑くなかったそうです。
むしろ、肌寒いくらいでした。
この場所に長居は無用だということで、じじいは先を急ぎました。
歩き続けていると、だんだん風が吹きはじめて、まわりの音も、少しづつ聞こえるようになったそうです。
気がつくと、まったく普通の山になっていました。
自分の体調がおかしかったのかとも思ったそうです。
類似した話をいくつかじじいが話してくれたことがあります。
とつぜん風景が白黒になる、とか、まわりの音が聞こえなくなるとか。
1つの体験を、少しづつ違った話として、私にしてくれたのかもしれません。




