石じじいの話・静かに死ぬ(朝鮮)
石じじいの話です。
じじいは、朝鮮の山を歩いていた時に、ひとりの男性に出会いました。
その人は、山の岩に寄りかかって座っていました。
じじいがどうしたのか?と尋ねると、
「私は、もうすぐ死ぬのだ。死を待っているのだ」と。
じじいは、いわゆる「口減らし」か?とも思ったのですが、その人は、壮年男性で着ている服装もしっかりしているので、そうでもなさそうです。
朝鮮では、そのような男性は、家庭での地位はずいぶん高いのです。
不思議に思って、じじいが、いろいろ尋ねると、
「いやいや、あまり人に話すますまい。静かに無言で死ぬのです。」と言って、彼は口を閉ざしました。
じじいは、持っていた菓子をそばにおいて、村におりました。
村で尋ねると、その人の家が見つかりました。
その人は、昨日から姿が見えなくなったので、村の人々が探している、と。
その夜、そこで泊めてもらったじじいは、次の日、家族の人、村人を案内して山に登りましたが、その岩には誰もいませんでした。
みんなで、まわりを探しても、その男性は見つからなかったということです。
家人も村人たちも、その男性がどうして山中に入って「静かに死をむかえようと」考えたのか、その動機を思いあたることはなかったそうです。
いや、思いあたることはあったのかもしれませんが、日本人のじじいには知る由もない。




