石じじいの話・母の写真
石じじいの話です。
みなさんの家には、写真アルバムがありますか?
昔は、必ずといっていいほどアルバムが家庭にありました。
何冊もあることもめずらしくありませんでした。
お誕生や入学、お正月、結婚式、還暦などのお祝いのときに、写真館で、また、写真屋さんをよんで記念写真を撮ることがありました。
ある男性が、写真館で撮影した、むかしの記念写真を懐かしく見ていました。
二つ折りの写真台紙に装丁された立派なアルバムです。
ある年の正月に撮影した家族の集合写真でした。
晴れ着姿の母親が写っていました。
母親の顔は、やつれていて、やや険しい表情でした。
『ああ、もうこの時には、母の体調は悪かったんだな。』
『この写真を撮ったときには、母がもうすぐ死んでしまうとは思わなかったな。』
『あのとき、気づいていればな。』
『もっと優しくしてやればよかったな。』
『甘えておけばよかったな。』
そう考えながら写真の母を見ていると、彼は悲しくなって、写真アルバムを閉じました。
そして、すぐに、懐かしい母の顔をもういちど見たいと思って、アルバムを開くと、その母が微笑んでいたそうです。
『かあちゃん・・・。』




