石じじいの話・死に備える
石じじいの話です。
じじいは、石探しと物見遊山を兼ねて、瀬戸内海の島々を訪れたことがありました。
彼の故郷からも近かったということもあります。
島の漁師たちは、自分の漁船に、行李を積んでいて、その中に晴れ着を入れていました。
万一、故郷から遠く離れて漁をしているときに死んだら、それを着せて、現場近くの島や陸地の寺に埋葬するのです。
その寺が、自分たちと同じ宗派のものでなくてもかまわない。気にしなかったといいます。
そこに、寄付もしました。長く弔ってもらうように。
つまり、その寺の宗派の門徒として、その宗派に対して拝むのではなく、自分の宗派のものとして、そう考えて拝んだのです。
もし、寺の墓地に埋葬できないときは、近くの島の墓地以外の場所に埋葬しましあ。
そのときは、その島の人たちは、海の見える丘、山の上に、その人を埋葬することを許したのです。
そこから、海の向こうの故郷を見ることができるように。
じじいも、訪れたいくつかの島で、山の海の見える場所に、石積みだけの墓を見かけたことがあったそうです。
そこは、島の村の墓地とはちがう場所です。
じじいは、その墓に立って海を眺めていると、自分もいずれ旅先で死んで、その地で埋葬されたりするんだろうかと感傷的になったそうです。
そうは、ならなかったのですが。




