石じじいの話・岬のむこうの墓
石じじいの話です。
海のお墓の話です。
石探しのために海岸線を歩こうと、漁村を訪れたときの話です。
じじいが、海岸を歩いていく予定だということを聞いた漁村の人が言うには、
「あそこに岬が見えろう。あの岬のむこうがわに墓があるんよ。墓言うても墓石はないんや。死んだ人を埋めとるだけなんよ。それやけん、骨が海岸にちらばっとることがあるけど、びっくりしなはんなや。」
「しかしな、そこで長居は無用で。もう、夕方やが、そこで野宿したらいけんで。『来るけんね』」
何が来る?
どこへ来る?
とじじは思ったそうです。
その人によると、
その岬の向こう側にある海岸は、「通らずの浜」と呼ばれている。
そこへ死体を運ぶ時以外は、村人は近づこうとしないのだ。
そこは、墓場だ。というよりも、「死体を捨てる場所」だ。
そこは、ここから、この村から見えないだろう?岬がじゃまになって。
むこうには人家はもうない。人の目に触れない場所なのだ。
だから、良いのだ。
そこなら、埋めた死体から、この村が見えないから、ここへやってくる、戻ってくることはない。
死体が帰ってくることがある。
村の墓地に埋葬すると、かならず来る。村へ来る。
そして、たたりをなすことがある。
だから、死体から見えない場所に埋めるのだ。
海に流すと、海に浮かびながら、また、海の底に沈んでから、戻ってくる。
死体の中に他のモノが入って、村に戻ってくるのだ。
しかし、何が入っているのかはわからない。
まあ、海の魔物だろう。
さらに、昔は、船で遠くの無人島に死体を持っていって埋めていた。
埋めるので、埋める場所があるような、ある程度の大きさの島でないと、埋葬島にならなかった。
XX島は、今は人が住んでいるが、昔は無人島で、それが埋葬島のひとつだったのだ
だから、海岸に、その時の墓がたくさんあるのだ。
じじいは、当然、その埋葬島であった島に行ったことがあり、ゾッとしたそうです。
これまた、そこへ行く前に、いやな話を聞いたもんだ、と思いながら、それでも、石の誘惑には勝てず、じじいは、その海岸に向かいました。
言われた岬を越えるときは、緊張したそうです。
そこは、きれいな砂浜がひろがっていたそうです。
とても死体捨場(墓場)のようには見えなかったと。
それでも、やはり、骨は散らばっていました。
それらのほとんどは、割れて、表面に細かいヒビが入ってささくれだった状態まで風化していました。
骨は破片状態になっていたので、それほど恐ろしくはなかったのですが、歯の抜けてしまった下顎を見つけたときは、ちょっといやな気持になりました。
いちおう、じじいはお経を唱えて、そこを去ったのですが、後ろから何かがついてきたらどうしようと心配したそうです。
その浜で、散らばっている骨を見ている時、偶然めずらしい石を見つけることができたので、うれしかったそうです。
「『虎穴にいらずんば虎子を得ず』ちゅうやつかいのう。」
「いや、『瓢箪から駒』やったかのう。」
「ま、ええわい。」




