石じじいの話・入水入定
石じじいの話です。
じじいが、海岸を石を探しながら歩いていると、海岸に老人が一人、佇んでいました。
何か、思いつめているようだったので、心配になって、じじは、彼に声をかけました。
その老人は、意外と明るい感じで応対してきたので、じじいは安心しました。
何をしているのです?
そう尋ねたじじいに、その老人は、昔話をしてくれたそうです。
むかし、近くの漁村にいた僧侶が、入水入定を果たしたのだ。
「入水入定」?じじいは理解できませんでした。
老人は続けます。
それは、石を身体に縛りつけて、歩いて海に入っていくのだ。
そして、入定するのだ。
海の底に、極楽があると考えて、そのような方法で入定する僧侶がいた。昔。
補陀落渡海のようなものかと、じじいは考えました。
なにか、声をかけにくいような感じだったので、その後、じじいは黙って、老人のそばにたって、海を眺めていました。
しばらくして、老人は、海を見ながら、じじいに話しかけるともなく低い声で言いました。
『いや、海でなくてもよい。水の底に極楽はあるのだ。』
『私にはできなかった。修行が足りなかったのだ。』
『海は怖いので、池に入ろうとしたが、怖くてできなかった。』
『川の深い淵に入ろうとしたがだめだった。』
じじいは、静かに、その場を去りました。




