石じじいの話・善人になる薬(ロシア)
石じじいの話です。
これは、じじいの朝鮮での知り合いのロシア人が話してくれたものです。
そのロシア人は、オデッサに住んでいたときに、知った話だということです。
「善人になる薬」があったそうです。
その薬を服用すると、善人になるのです。
普通の人間には効果がなく、悪人にこそ効果があるです。
その話を聞いた時、「まあ、常識的な話だな」と、じじいは思ったそうですが、ちょっと当惑したそうです。
「普通の人」とはなにか?
「善人」とはなにか?
という判断に、じじいは自信がなかったからです。
その薬はどのようなものなのか?
液体状の飲み薬である。
黒い、コーヒーのような液体だが無味無臭。
その製造法は不明でした。
じじいの知り合いのロシア人に、その薬の話をしてくれた人物は、製法については教えてくれなかったということです。
その人物は、製法について知っているようでしたが。
ただ、そのオデッサの人物が言うには、
べつに、非科学的な呪術的なものではない。
とても科学的な、化学的な・生物学的な理論にもとづいた製法なのだ。
と。
「ヘルマンの理論に基づいている、云々」ということでしたが、そのロシア人にはよくわからなかったようです。
そんな薬を服用して大丈夫なのか?と、そのロシア人が尋ねたところ、そのオデッサの人が言うには、
「うむ。効果のある薬なんだが、副作用がある」
どのような副作用か?
知能が低下するのだ。
つまり、バカになるのか?
いや、そういう意味ではないのだが・・・。
それに、身体に物理的な変化が起きるのだ。
その身体の物理的な変化については、私の聞き取りノートにかかれているのですが、現在では(当時でも)問題のある表現・現象なので、ここでは伏せます。
ただ、その物理的(生物学的)変化は、服用者の頭部、体躯部、四肢部のすべてに現れたそうです。
そして、その変化が、後世に遺伝するのだ。
いや、これは、まずいのではないのか?
「善人」というものになったしても、その代償はあまりにも大きく深刻なように思えるのです。
じじいの知り合いのロシア人は、ちょっと背筋が寒くなったそうです。
その薬の服用で低下する「知能」とはなにか?と、そのロシア人が尋ねると、オデッサの人物は、「それは、ゴルトンの理論によって明らかだ」と答えたということです。
ロシア人は、ビネの知能検査というものは知っていたそうですが、どうもそれとも違うようだったと。
そのオデッサの人物が力説するには:
たしかに、副作用があるのは問題だが、「悪人が善人になるのだ。」
これによって、人類の改良が行われるとすれば、すばらしいことではないか!
善人に改良することは、感化院でも流刑でも不可能なのは、歴史が証明している。
じじいの話は、ここまでなのです。
当時、この話をしてくれたじじいが言うことには:
善人とはなにか?
悪人とはなにか?
知能とはなにか?
改良とはなにか?
「そがいなことは、ようわからんことよ。ぼくもようかんがえてみんさい。こたえが出んことかもしれんが。」
薬の副作用によって生じた身体の変形が遺伝するのなら、その「善人としての人間性」も子供に遺伝するのでしょうか?
数世代にわたって、その「善人薬」を服用すると、その人の系統は、どうなるのでしょうか?
どのような姿に変化していくのでしょうか?
*ロシア帝国時代のオデッサという町は、ロシア人によって作られた町であり、北欧人やドイツ人、ユダヤ人など外国人がたくさん居住するロシア人の町だったそうです。




