石じじいの話・影の浮かぶ鏡
石じじいの話です。
不思議な鏡がありました。
それは、鏡台でした。
この縦長の鏡面の下辺部の近くに「影」が現れたのです。
それは、人の顔のように見える縦長の影像でした。
大きさは縦5センチくらいの「顔」のような薄暗い影です。
よく見ると、その影の中に目鼻口のようなものがあるような気がする。
それは、いつも現れるわけではなく、日常、鏡台を使っていると知らない間に現れているのです。
一度現れたらすぐには消えませんが、時間がたつといつのまにか消えていました。
持ち主は恐れたのですが、害は無いということでおそるおそる使っていました。
持ち主は、ある婦人でしたが、その夫が好奇心の強い人で、その鏡を調べてみることにしました。
影が現れているときに、鏡台を陽なたに持ち出してみました。
強い光があたると、その影は消えるのですが、よく調べても鏡じたいには異常はないようです。
鏡台から鏡をとり外してみようかとも思ったのですが、鏡が割れる可能性があったので、それはあきらめたそうです。
その家の人たちは、鏡に現れる影を注意深く観察しました。
ただ恐れるだけではないというのが、その家族の頼もしいところです。
影は、ひとつ(一人)だけではなく、複数現れることもりました。
「二人」、「三人」と現れることもある。
また、その影が顔のようにはっきりと見えることもあり、また、単なる黒い塊のこともある。
そして、その顔が現れる場所が、毎回異なっているのです。
いや、同じ場所に連続して現れることもあるのですが、別の場所に移動して現れることも多いのです。
夫は、おもしろがって(度胸がありますね)、鏡に半紙をはって、上から影たちの位置をなぞりました。
すると、それが毎日、変化するのです。
その記録紙を日付順に並べてみると、現れる影の数が周期的に増減しているのです。
もちろん、影たちが出現する位置も変化しています。
これらには、法則性、周期性があったといいます。
鏡台を使っている奥さんは、「もしかして、このような現象は、鏡を見る側に問題があるのでは?」とも考えたそうです。
つまり、見ている自分たちの眼や脳が悪いのではないか?
発想の転換であり、頭の良い考えです。
このように考えることができるのなら、その人の脳はだいじょうぶでしょう。
しかし、誰が見ても、鏡の中の影の形や位置や数は同じなのです。
いっしょに見ても、見える影の状態は同じです。
だから、この現象は鏡の中に生じているのであり、自分たちの脳内でのイメージではないということになりました。
その後、その鏡台には影が出つづけましたが、その家族には、わざわいや怪異などは起きなかったようです。
ただ、その家のご主人は、その影が出始めたときから10年を待たずに亡くなったそうです。
彼の死と影との関連性は不明です。




