石じじいの話・嘘つきたちの家
石じじいの話です。
じじいは、石探しのために海ぎわの丘を歩いていました。
その日の宿泊のために町への道を急いでいたのですが、どうも道がわからない。
町と言っても、ひなびた港町で、山からそこへ行く道に人通りはありません。
じじいは、自分の方向感覚を信じて、夕暮れの原野の中を町の方向へ向かいました。
とぼとぼと歩いていると、道路からちょっとのぼった山の斜面に一軒の人家があります。
家のまわりには畑があり、どうも人が住んでいるようです。
坂をのぼって、その家を訪ねてみると、若い女性と高齢の女性が庭で農作業をしていました。
男性の姿はありません。
じじいは、そこで町への道を尋ねました。
若い女性が親切に教えてくれました。
「ここから、下の道をまっすぐ西に行くと、三叉路がありますから、そこを右に曲がると町へ行く道です。右の道ですよ。」
丁寧に教えてくれた女性に礼を言って、じじいは歩きはじめました。
家から、坂道をくだって下の道に出たときに、さっきの家から高齢の女性が小走りにやってきて、じじいに呼びかけました。
「あなた、あなた、あの女の言うことを信じてはいけませんよ。あの女は悪いやつなんですから。さっき教えた道もウソなんですよ。あの三叉路は、左の道を行けなければなりません。右に行ったら海ですよ。断崖絶壁です。あぶない、あぶない。」
じじいは、その女性の心配そうな切羽詰まった口調に気圧されましたが、気を取り直して礼をいって別れました。
その女性は、じじいをずっと見送っていたそうです。
件の三叉路に立つと、たしかに右の道は海に向かっている。
これは、やはり左の道だろうなと判断して、じじいは左側の道を進みました。
あれ?
道は山の方へ向かっています。
それに、どんどん狭くなって、もう使われていないような状態になります。
このままでは、山の中に入ってしまいます。
もう日没も近いと言うのに。
やはり、若い女性の言ったことが正しいのでは?と思いなおして、じじいは三叉路に戻りました。
右の道を進んでみました。
道は、海に面した崖で途切れました。
これは、真ん中の道が正しいのだなと思って三叉路に戻ると、一人の男性がその真ん中の道からやって来ました。
じじいが、彼に町への道を尋ねたところ、
「ああ、わしが今とおってきた道が町への道だよ。わしは町から来たんだ。」
じじいは呆れたそうです。
あの女性たちが教えてくれた2つの道はどれも間違っていたということなのです。
じじいは、その人に別れて真ん中の道を進みました。
幅広いよく使われている道です。
町への道でしょう。
黄昏の中をじじいは町へ急ぎました。
おおっ、道がない!
歩いてきた立派な道は、雑木林の中で、すぱっと切断されたように途切れたのです。
じじいは当惑しました。
「みんな嘘つきなのか?」
ここで、この話の聞き取りメモは途切れています。
このあと、じじいはどうしたのか?
彼が笑ってこの話をしてくれたのですから、その後は無事だったのでしょう。
結局、道を教えてくれた三人は、皆嘘をつていたのでしょうか?
まさか、三匹の狐というわけではないでしょうが。




