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石じじいの話  作者: Lefeld
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石じじいの話・雨の日に帰る両親

石じじいの話です。


死んだ両親が、雨の日に帰ってくることがあったそうです*。

石探しのためのたびたび出向く地方の知り合いの経験です。

その人の両親は、彼が幼い頃にあいついで亡くなりました。

彼には身寄りがありませんでしたから、齢の離れた姉と一緒に家で生活することになりました。

姉は、遠くの商家で働いていたのですが、親たちが親しかった知り合いに引き取ってもらうまでの間ということで家に帰ってきたのでした。


ある日、夏の夕立のとき、死んだはずの父親が慌てて玄関に駆け込んできました。

「いやいや、ひどい雨だ、急に降ってきてずぶ濡れだ!」

父親は、明るくその子に話しかけました。

すると、家の奥から死んだはずの母親がてぬぐいを持ってやってきました。

父親は、手ぬぐいを受けとって体を拭き始めたのです。

彼らは、血色もよく、いきいきとした姿は、とても幽霊のようには思えなかったそうです。

両親をなくして寂しい思いをしていた彼は、両親の出現に驚きましたが、恐れはなく、幸せの恍惚感に満たされました**。

夕立はすぐにやみました。

雨が小降りになると、両親は消えました。玄関の土間の闇に溶け去るようだったそうです。

父親が使っていたてぬぐいだけが玄関の上がり段に落ちていました。

姉が帰ってくると、その子は両親の帰還を興奮して説明したのですが、とうぜん信じてもらえませんでした。

その子も、両親の姿が自分の思慕の心が生み出した幻影だろうと理解はしていたので、あえて強弁することはありませんでした。

次の雨の日、両親は帰ってきました。

「いや、町で雨に降られてたいへんだったよ。これが濡れるんじゃないかと心配した。」

お土産を買ってきてくれました。

家にいた姉を、その子は急いで呼びました。

玄関に出てきた姉は、帰ってきた父母を見て当惑しているようでしたが、気をとり直して彼らに話しかけました。

彼らの受け答えには、生前とちがったところはまったくありませんでした。

それで、姉は、「あなたたちは死んだのになぜかえってくるのか?」とは、あえて尋ねなかったのです。

彼女は怖かったのでしょうか。

それから、雨が降るたびに両親が帰ってくるようになりました。

その子は、雨を待ちわびるようになりました。

秋雨のシーズンは嬉しかった。

冬が近づき、だんだん雨が少ない時期になると、その子は、いつ両親が帰ってこなくなるかと心配になったそうです。

もし、雪が降ったらどうなるのだろう?

その日が、両親が帰ってこなくなる時ではないだろうか?

師走になって雪が降りました。

両親は帰ってきました。

そのときの雪が溶けるまで一緒にいることができたのです。

大晦日の前日は大雪になりました。

帰ってきた母親は下駄を履いて、玄関から門まで雪かきをするために竹箒をもって出ていきます。

毎年、雪の日に見られた母親の姿でした。

その子も一緒に雪かきをしました。

かじかんだ手を握ってくれた母親の手は暖かだったそうです。

正月。

みんなで雑煮を食べて、お年玉をもらい、凧揚げにいこうということになりました。

うきうきしながら、その子が、玄関に行くと両親は消えていました。

姉は、彼の手をしずかにとって、家をあとにしたそうです。

*雨が降る日に死者が帰ってくる、あやしいモノが来る、という話は、じじいがよくしてくれました。

帰ってくるモノたちを魔物ではないかと疑う家人たちは、それらをけっして家の中に入れなかったそうです。

訪れてくるモノたちも、けっして自分で戸を開けて入ってこようとはしないのでした。

**じじいの死んだ母親が、死後、家の仏壇の間に現れる。その部屋に出続ける母親に会いたいがために、じじいは、廃屋になった自分の家をひとりで訪れつづけるという話がありました。

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