石じじいの話・月からの移住者
この話は、じじいの話の聞き取りノートのいくつかの場所に書き残されているのですが、全体としてよくわからない話です。まとめようがないというか。
当時、小学生の私の理解力がなかったせいでしょう。
関係ない別の話が混じっているのかもしれませんが、興味深い話なので、一つのストーリーとして書いてみます。
石じじいの話です。
月からやってきたという人々がいたそうです。
その男性は、自分を「隊長」と称していました。
奥さんが副隊長でした。
彼らの子供や親戚、知人たちが隊員だったようです。
彼によると、彼らの先祖たちが月から地球にやって来て、自分たちはその子孫だと。
最初の移住隊は、百人程度の集団であり、彼ら以前にも、そして、その後にも何回か移住隊がやって来たらしい。
「来たらしい」というのは、地球に到着後は、月との連絡手段が無く、自分たちのあとに後続部隊がやって来たのか(そのような計画が月にいるときにはあったということでしたが)、その部隊が地球到着に成功したのか?成功したのなら、その後どうなったのか?は知るすべもないと。
ある場所に、先発隊や後続隊のために書き置き(伝言)を残したそうですが、それが回収されたかどうかはわからない。
あまり多く、そのような証拠を残すのは、地球人に知られる可能性があるので危険だということでした。
じじいは、その男性にいろいろと尋ねました。
月から地球へ移動する手段は何か?とじじい。
「洞窟」を通ってやってくるのだ、と男性。
以下は、男性(移住隊隊長)の説明です。
月と地球は「洞窟」でつながっているのだ。そこを通って地球に来れるが、逆に月へは行けない。
だから、地球への移住は一方通行だ。
地球の大気の酸素濃度は、月に生まれた者たちにとっては、有害だ。もっと低い酸素濃度が適当だ。
地球の大気に順応するために、手術と投薬が必要であり、その処置に数年かかる。手術も数回受ける。
もっと難しいのは重力の違いだ。
最初に地球に来ると、重力で自立できない。事前の「筋肉訓練」を月であらかじめ行うが、それでも厳しい。
地球に到着後、各隊員がともに訓練して、「人並みに」動作できるようにするのだ。
月と地球の文明・文化のレベルは同じ程度だ。
ただ、月には資源が少ないので、地球のような高度な産業が発達しないし資本主義のような社会体制も無い。
女性と男性の社会的役割・地位の違いは、地球ほど分化していない。
それが生じるような発達した複雑な文明ではないのだ。
子どもが少なくなっている。月の厳しい環境が出生率を低下させている。
地下には、水はあるが、それを入手するのは非常に難しい。
金星に移住しようという人々もいたが、彼らのアイディアは採用されなかった。
金星に通じる「洞窟」もあったのだが、地球よりも環境が厳しいだろうという知識はあったので、そこでの生存は難しいだろうということで、その案は放棄された。
火星に移住しようという人々もいたが、火星は非常に遠いので成功はしなかっただろう。
火星への「洞窟」は見つからなかったし、火星へ行くための「船」も、月の技術力では建造が不可能だった。
ただし、自分たちの祖先が地球へ移住した後に、月からの火星への移住や金星への移住が行われたかもしれない。
しかし、月との連絡は不可能なので確認のしようがない。
月の人間たちは、地球への移住者との連絡方法を考えた。
月の表面に大規模な反射鏡を作って、それを使って地球に信号を伝えるのはどうか?
表面に、そのような大きな施設を建設するのは非常に困難だったが、不可能ではなかったのだ。
しかし、そうすることによって、その建造物と、そこからの信号が地球人によって探知される恐れがある。
べつに、探知されても地球人が月にやってくる手段はないのだから、大きな問題は無いと考えられた。
しかし、地球人がそれを知ると、その後の地球への移住計画の障害となるのではないかということで建設が躊躇された。
その「月人」たちは、地球人と顔つきは変わりませんでしたが、身長が高かったということです。
呼吸器の手術をしたらしく、全員に、その胸に手術痕があったそうです。
その痕は、血縁関係の無い人々にも共通してあったので、遺伝的な特徴ではないと考えられました。
この話は、ここで終わっています。
というより、これ以外の内容はノートに記録されていません。
人類の初の月面着陸は、早朝にテレビで中継されました。
ノートによると、その中継番組をテレビで視た週に、じじいにこの話を最初に聞いたようです。




