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石じじいの話・闘犬の忠告
以前、闘鶏に熱中している男が、自分の鶏に殺された話を書いたことがあります。
これは、それと似た話です。
犬になって死者が戻ってきたことがあったそうです。
その死者は、母親でした。
母親が、息子のもとに帰ってきたのです。
子犬として。
その息子は、闘犬に熱中していました。
彼は、その子犬を闘犬として育てましたが、とても優秀な個体でした。
彼は、その闘犬をたいへん自慢して、「種犬」として金を儲けていたそうです。
ある時、その犬が、彼に人語で話しかけてきました。
「お前は、まだ、このような残酷なことを楽しんでいるのか?」
「必ず地獄に落ちるぞ」
と。
その男は、驚愕しましたが、気を取り直して犬に、お前は誰かと詰問しました。
「私は、お前の母親だ。」
と犬。
この話を聞いた周りの人たちは、それは幻聴で気の病ではないか?
あるいは、タヌキに騙されたのではないか?
などと勝手なことを言いました。
しかし、彼は、犬の話に何か感じたらしく、闘犬をきっぱりとやめました*。
その後、犬は、大事に育てられていましたが、ある日、綱を切って逃走したそうです。
*この話は、極めて説経唱導的です。




