石じじいの話・田んぼの大木
石じじいの話です。
ある人が、田んぼを購入したのですが、その田の真ん中には、大木が生えていました。
これでは、耕作のじゃまになるということで、購入した人は、その木を切り倒すことにしました。
木の根元を切ると、切り口から血が出はじめました。
「老いた樹木は、汁がでるもんだ」と言って、気にすることもなく、伐採作業を続けました。
そうして作業を進めていたところ、幹の中心部に大きな穴(空間)が空いていたのです。
これも、年を経た大木には、しばしば見られることです。
しかし、ここからが違っていました。
その穴から、「ヒトガタ」があらわれて、田んぼの持ち主に歩み寄ったのです。
それは、人間のような犬のような真っ黒なものだったそうです。
彼は、これを、ナタで打ち殺しました。
それに続くように、同じヒトガタが四人も出てきましたが、それもすべて打ち殺してしまったのです。
それらの死体を見ると、それは、人でもなくサルでもない。
そうして、ついに、大木は切り倒されました。
切り株を掘り出した時にも、その根からも血が出たそうです。
死体は、気味が悪いということで、河原で焼やされました。
焼いたあとには、骨が残っていたそうですが、みな気味悪がって誰もよく調べる人はいませんでした。
そのうち、骨は流されてしまいました。
その黒いヒトガタは、その大木の精だろうという人もいました。
いや、大木に住んでいた魔物だという人もいました。
その大木には、ムササビが住み着いていましたが、魔物はムササビの姿を借りて、夜な夜な外を跳梁していたとも言われました。




