石じじいの話・笑男
石じじいの話です。
山中で、「笑男」に出会うことがあったそうです*。
その笑男は、人にかならず害を及ぼしました。
ある時、山に雉撃ちに行こうという人がいましたが、山裾の村人は、今日は山に入らないほうがいい、笑男にあうぞ、と彼を止めました。
これに出会うと、死ぬこともあるのだ、と。
雉撃ちの男性は、、それを無視して、山に入りました。
彼が、沢沿いに行くと、一町ほど先の森の端に15, 6歳の男の子が出てきて、彼を指差して笑いはじめました。
その笑い声は、だんだん高くなって、まわりの石や草木も山さえも笑うように思えたそうです**。
さらに、風や水までも笑っているようだったと。
これは、たまらないというので、山を下って逃げたのですが、心配して途中まで迎えに来ていた村人たちに助けられました。
これで、一安心ですが、家に帰ったあとも、彼の耳のなかでは、あの笑い声がやみませんでした。
あの笑い声が聞こえていて、心が休まるときがない。
あのとき見た子どもの姿を思い出すと、するどい痛みが頭の中に走ったといいます。
このような話もあります。
狩猟が趣味の町の人が冬の夜に山にでかけました。
雪は降っていなかったので、山歩きは楽でした。
野営をしていると、真夜中に、峰のほうから人を呼ぶような声が聞こえ始め、それが、だんだん近づいてきました。
そして、14〜15間くらいの上の方から、つまり空中から、歯の抜けた老人のような「ふぁふぁふぁ」という笑い声が聞こえてきたそうです。
その笑い声が、山谷に響き渡りました。
それを聞いた男性は、体がしびれて気を失いかけましたたが、なんとかもち堪えて、銃に弾をこめ山刀を握って身構えていましたが、その後は何事もなかったのです。
夜が明けてから下山し、村人に、その話をすると、その場所は地元の漁師でも近づかない、ということだったそうです。
山中で、笑う女もいたそうです。
それは、「山姫」と呼ばれていました。
彼女は、必ず背中を向けて立っていて、彼女の顔や前を見たものはいませんでした。
打ち掛けを着ていたそうです。
人々は、彼女に出会ったら、すぐさま逃げ帰らなければならないと言っていました。
笑男は、海にも出たそうです。
漁民が、別の漁村を訪れた際、浜に船を上げておきました。
その村での用事がすんだので、帰ろうとして浜にもどると、彼の船の近くに「仙人」のような男が立っていたそうです。
彼の髪の毛は長く、眼が光り、手足の爪が長く伸びていました。
彼は、その漁民に向かって大声で笑いました。
漁民は、それに驚いて「仙人」に声をかけましたが、彼は応答しませんでした。
ただ笑うのみです。
しばらくして、彼は、突然からだを翻して、山に向かって飛ぶように駆け上っていったそうです。
笑いながら。
*楳図かずおの「笑い仮面」という漫画をご存知でしょうか?
小学生の頃、この作品を雑誌連載を読んで恐怖したものです。
ただ、子供の私には、ストーリーの展開を追うのが難しかったですね。
この話とは関係性のない漫画ですが、作者が亡くなったというニュースを目にして、思い出しました。
**以前、「山から大きな声が聞こえてくる」という話を書いたことがあります。実在の人を避難する声であったり、意味不明な自分の心情を吐露する声であったりと。




